最新記事
SDGs

アルゴリズムで環境保護──森林を守る「良心のコード」とは?

CODED THREATS

2023年5月1日(月)12時40分
デボラ・ホジソン(オーストラリア在住ジャーナリスト)
AKQAの動画で森と命の大切さを語るラオーニ

AKQAの動画で森と命の大切さを語るラオーニ COURTESY AKQA

<木々をなぎ倒す「怪物」を羽交い締めにする小さな力持ちを開発>

オーストラリア・ビクトリア州のオーガン・パイプス国立公園は、パイプオルガンのパイプそっくりな縦に無数の割れ目が入った玄武岩の岩壁がそそり立つことで知られる。この公園内のオーストラリアヒノキの古木がそびえる場所で、2台のマシンが「一騎打ち」を繰り広げることになった。1台は建設業や林業などで活躍するトヨタのスキッドステアローダー。対するは手のひらに収まる小さなシングルボードコンピューターだ。

木立の特定のエリアにローダーが接近すると、コンピューターがすかさず探知。仮想のフェンスである「ジオフェンス」を無視してローダーがエリア内に侵入すると、運転士のスマートフォンに警告メッセージを送信する。「保護エリアに入りました。退去しないとエンジンを止めます」

運転士がこれを無視して進もうとすると、今度は待ったなしの警告が流れる。

ただの脅しではない。小型コンピューターは電子リレースイッチに信号を送り、回路を切断。すると燃料ポンプの電源が切れて、ローダーはエンストを起こす。退去のためにわずかの間再び電源が入るが、運転士が警告を無視し続ければ、ローダーはエンストを繰り返す羽目に......。

結果は? コンピューターの勝ち! ローダーはすごすごと去るしかない。

実はこれ、グローバルに事業展開するイノベーション企業AKQAが2019年に公開したオープンソースのソフトウエア、その名も「コード・オブ・コンシエンス(良心のコード)」のデモンストレーションだ。

このプログラムは既にオーストラリアの鉱業や酪農地帯で導入され成果を上げている。

古木の森を保護区に指定するだけでは、違法伐採は防げない。伐採業者はしばしば境界線に気付かないふりをして保護区に侵入し、木々を切り倒すからだ。困ったことに、取り締まり当局もこうした慣行に目をつぶるケースが少なくない。

必要なのは発想の転換

その証拠にオーストラリア放送協会の21年の調査によれば、ビクトリア州が運営する林業会社ビックフォレスツは、特別保護ゾーンに指定された原産種の森林を合計で最大321ヘクタールも違法伐採していた。

ならば数学的アルゴリズムで人間の弱点を制御したらどうか。そんな発想から生まれたのがコード・オブ・コンシエンスだ。

オーストラリアの森林も危機的な状況にあるが、地球上に残された熱帯雨林の3分の1を占めるアマゾンの森林破壊はそれよりはるかに深刻だ。世界自然保護基金(WWF)の推定によると、今のペースで伐採が進めば、30年までにアマゾンの木々の27%が失われる可能性があるという。

キャリア
AI時代の転職こそ「人」の力を──テクノロジーと専門性を備えたLHHのコンサルティング
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏がMRI検査、理由明かさず 「結果は完璧

ワールド

米中外相が電話会談、30日の首脳会談に向け地ならし

ワールド

アルゼンチン大統領、改革支持訴え 中間選挙与党勝利

ワールド

メキシコ、米との交渉期限「数週間延長」 懸案解決に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 3
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下になっていた...「脳が壊れた」説に専門家の見解は?
  • 4
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 5
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 6
    中国のレアアース輸出規制の発動控え、大慌てになっ…
  • 7
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 8
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中