最新記事

化学療法

癌細胞を確実に攻撃する「魔法の弾丸」(米ミズーリ大学研究)

THE MAGIC BULLET FOR CANCER

2020年4月3日(金)17時35分
アリストス・ジョージャウ

アプタマーが標的を見つけるには、正常細胞と比べて、特定の癌細胞の表面にはるかに多くある異常タンパク質が目印になる。バークアグエロによると、異常タンパク質と結合したアプタマーは「癌細胞がそのタンパク質を再利用するために内部に取り込むときに、ちゃっかり『ヒッチハイク』する」。そうやって荷物もろとも細胞内に入る。

ミズーリ大学のチームは、癌細胞を攻撃する化合物の代わりに蛍光物質をアプタマーに運ばせた。アプタマーの「仕事ぶり」を可視化するためだ。

実験では、アプタマーを標的細胞と標的ではない細胞を交ぜた培養器に入れた。すると標的細胞だけが光を放ち、アプタマーが標的細胞と特異的に結合したことを確認できた。

この研究は実用化に向けた大きな一歩になったと、バークアグエロは話す。ミズーリ大学チームがアプタマーに載せた「荷物」は一般的な研究で使われるものに比べ、ざっと10倍も大きいからだ。大きな荷物を担えるということは、多様な化合物を運べることを意味する。

ただし実用化までには、まだまだやることが多いと、バークアグエロは強調する。例えば、合成アプタマーは体内に入れても安全だと言われているが、例外的なケースも報告されている。長期にわたる体への影響も、まだ分かっていない。

隠れた敵も見逃さない

ナノ粒子による薬物の運搬は複雑なプロセスを伴うものだが、アプタマーを使うアプローチはこれまでに提唱されたナノ医療に比べて、運搬プロセスの操作性が高まるという利点がある。

その点を認めながらも、バークアグエロは「1つ断っておきたいが」とクギを刺す。「忘れてはならないのは、大きな物理的障害がいくつもあることだ。例えば、隙間がなく、新生血管が少ない腫瘍の構造などだ。そのせいで、薬物やナノ粒子が癌細胞に到達できないことも多い。画期的な治療を実現するには、運搬を妨げるこうした障害もクリアしなければならない」

癌細胞にたどり着ければ、後はこっちのものだ。癌を攻撃する方法については、これまでの研究の膨大な蓄積がある。周囲の細胞を傷つけずに、癌細胞だけにダメージを与える方法も分かっている。問題は、どうやってたどり着くか。こちらはまだまだ研究の余地があると、バークアグエロは言う。

彼らの今後の課題は、薬物を載せたアプタマーがほかの組織を傷つけずに、癌細胞に確実に到達できると実証することだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、総裁「状況は正しい方向」 利

ビジネス

FRB「市場との対話」、専門家は高評価 国民の信頼

ワールド

ロシア戦術核兵器の演習計画、プーチン氏「異例ではな

ワールド

英世論調査、労働党リード拡大 地方選惨敗の与党に3
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 4

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 5

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 6

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 7

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 10

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中