最新記事
環境

サーキュラーエコノミーで経済をエコ化せよ 世界の最新循環経済のフォーラム開催

2024年5月10日(金)17時10分
岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)
世界循環経済フォーラムで発表する女性

今年で第8回目を迎えた世界循環経済フォーラム photo by Marian Stănescu ©Sitra

<日本ではSDGsが主流だが、欧州では環境を前面に打ち出した循環経済に注力>

サーキュラーエコノミーは日本語で「循環型経済」と呼ぶ。ひと言でいうと、経済活動において、「資源をできるだけ再利用し、その価値を最大限に使用すること」だ(ただし、いくつかの概念や解釈がある)。

筆者はサーキュラーエコノミーという言葉が使われていなかったおよそ20年前から、ヨーロッパの事例について日本に紹介してきた(スイス発:ペットボトルや古新聞等のリサイクル品を運ぶための洗えるバッグの販売、ドイツ発:赤ちゃん向けの有機素材の肌着・上着レンタルなど)。そして今や、ヨーロッパではサーキュラーエコノミーを実現している企業が着実に増えてきている。

第8回世界循環経済フォーラム(WCEF)が開催

ヨーロッパでは、サーキュラーエコノミー関連のイベントが多数開催されている。今年で第8回目を迎えた世界循環経済フォーラム(World Circular Economy Forum 略してWCEF)は、代表的なイベントだ。本フォーラムは、フィンランドのSitra(フィンランド政府イノベーション基金)が主催している(参考:Sitraライフスタイルテスト)。

今年は2024年4月15日から18日まで、ブリュッセルで開催された。世界中からビジネスリーダーや政治関係者らが参加し、サーキュラーエコノミーを理論から実践に移すことについて語り合い、世界をリードするサーキュラーエコノミー例が紹介された。

今年の参加国は168カ国。1500人以上が現地に足を運び、オンライン参加者は8000人以上だった。プレス担当によると、日本からは15人が現地参加、105人がオンライン参加した。

前半2日間は主に講演(パネルディスカッション)、後半2日間は具体的な例に迫る「アクセラレーターセッション」の日程で、ベルギーの先進企業訪問のほか、北欧における循環型建設、アフリカの鉱山分野における循環性の強化、昆虫や幼虫を使ってプラスチックなどの廃棄物を生分解する方法といった様々なテーマの会が繰り広げられた。

「国家間の協力」と「イノベーション」がカギ

筆者は15・16日の講演にオンライン参加した。初日のセッション「循環的なビジョンを行動に変える」の中では、オランダのビビアネ・ハイネン社会基盤・水管理担当国務相、アフリカ開発銀行の気候変動とグリーン成長部門マネージャー、アル‐ハマンドゥ・ドゥルスマ氏、アンブロワーズ・ファヨール欧州投資銀行副総裁の3人のパネリストによる討論が行われた。

パネルディスカッション「ガバナンスと財政は理論をどう実践化できるか?」参加者たち

「循環的なビジョンを行動に変える」セッションにおけるパネルディスカッション「ガバナンスと財政は理論をどう実践化できるか?」 photo by Marian Stănescu ©Sitra


3人はサーキュラーエコノミーの実践について30分ほど語った。ハイネン社会基盤・水管理担当国務相は、「サーキュラーエコノミーは単独で行うことはできない。サーキュラーエコノミー先進国として知られるオランダは、持っているアイデアや専門知識を他国に提供し、他国から学ぶことも重視している。また、サーキュラーエコノミーは原材料の調達や製品に関してグローバルな価値の変化をもたらすことができ、例えば、アフリカの国々によいインパクトを与えるだろう」と話した。

ドゥルスマ氏は「アフリカにおいて、サーキュラーエコノミーは新しいことではない。目を引く事例はすでにある。今必要なことはスケールアップ。それには、まず各国政府が正しい方針と規則を示し、次に金融機関がサーキュラーエコノミーを単なるビジネスチャンスだととらえるのではなく、自らを、気候変動による生物多様性の損失や公害に対応するためのグローバルなコミュニティーの一員ととらえることも大切だ。サーキュラーエコノミーのスタートアップの存在も大切で、少額の資金と技術的な援助があれば、大きく成長できるはず」と説明した。

欧州投資銀行のファヨール氏は、サーキュラーエコノミーに対してのビジョンを語った。「サーキュラーエコノミーはヨーロッパの政策がどこに向かっているかと密接に関係していて、サーキュラーエコノミーのコンセプトを持たない企業やプロジェクトには、多額の投資はしにくい。また、サーキュラーエコノミーにはイノベーションが不可欠で、欧州投資銀行はそれらのプロジェクトへの投資を続けているが、その割合を増やす必要性を感じている。昨年は気候と環境のプロジェクトに50億ユーロを当てたが、そのうち、サーキュラーエコノミー分野のプロジェクトは一部のみだった」

なお、EUは2024年末までにサーキュラーエコノミーリソースセンターを新設し、サーキュラーエコノミーが世界的に実践されるよう促進していくと本フォーラムで発表した

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

金正恩氏が無人機試験視察、AIによる強化を命令=朝

ワールド

全国CPI、8月は前年比+2.7%に鈍化 市場予想

ワールド

仏で財政緊縮巡りデモ・スト、100万人参加と労組 

ワールド

国連安保理、ガザ停戦決議を否決 米が6回目の拒否権
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中