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ルポ特別養子縁組

母となったTBS久保田智子の葛藤の訳と「養子」の真実

ONE AND ONLY FAMILY : A STORY OF ADOPTION

2020年12月25日(金)09時30分
小暮聡子(本誌記者)

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養子縁組を仲介する鈴木は、生みの親にも寄り添う PHOTOGRAPH BY MAYUMI SUZUKI FOR NEWSWEEK JAPAN

「産み捨て」のニュースが後を絶たないなか、鈴木は、育てられる方法がある場合でも「あなた、本当は育てられるでしょう」などと追い詰めるようなことは言わない。「相談者は勇気を振り絞って連絡してきてくれる。頭ごなしに指導的発言をすると相手の心が折れてしまい、連絡が途絶えてしまうことが多い。そうなってしまったら、生まれてくる命も生みの親の現状も救えなくなる」

相手の言葉に耳を傾け、相談に乗りながら、さまざまな選択肢を提示し、一緒に考えていく。その上で、「特別養子縁組をすることが子供にとって最善だ」と彼女たち自身が判断し、決断するのであれば、ベストな縁組に向けてサポートしていく。

鈴木は言う。「育てられる環境がないため、別れざるを得ない。ほとんどの生みの親は、自分で育ててみたいと必ず一度は思うんです。そして、一生懸命考え、子供にとって縁組することが一番幸せになる選択だ、と決断します。泣かない生みの親はいません」

鈴木は10年前、当時18歳だった息子を突然死で亡くしている。言葉にできない喪失感は、鈴木自身も経験した。子を手放す親に対して、鈴木は「あなたも幸せにならないといけない」と語り掛ける。「特別養子縁組は、親と子のそれぞれの未来のための第一歩。あなたも子供も自分の道をしっかり歩いて行くための選択肢なのだ」と。

養子として育った彼女の本音

では、実際に特別養子縁組の子として育った人は、何をどう感じて生きてきたのか。今年から大阪で社会人1年生として働く23歳の村田明子(仮名)にオンラインで話を聞くと、父と母からは大切にされ、養子であることを特に意識せずに育ちました、幸せですと迷いなく語ってくれた。

明子には、真実告知をされた記憶があった。物心がつく前から「赤ちゃんの国からやって来た」と母に告げられ、小学校低学年の時に授業で国語辞典の使い方を習うと、自宅に帰ってこっそり「養子」という言葉を引いた。「これって何? 自分?」と思ったという。

幼少期の明子にとっては、言葉で定義される「養子縁組」という関係と、自分の現実の親子関係は別物に思えた。明子にとって両親は「養親」ではなく「お父さん、お母さん」、つまり「実親」以外の何ものでもなかった。

それでも、養子縁組について周囲から入ってくる断片的な情報から、18歳で家を出なければならないのかと「パニックになった」という。小学校高学年までは「養子って何だろう」ともやもやする気持ちが続いたが、親には聞いてはいけないことのような気がしていた。

自分が養子であることを感じながら育ったわけではない。周囲からの視線で嫌な思いをした記憶もほとんどない。中学と高校は「暗黒時代」で反抗期もあったが、それは「養子」であることとは関係ない。そう自分のことをどこか客観的な視点で語る明子だが、一方で自分のアイデンティティーを多くの言葉で模索してきたように見えた。

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