最新記事

米メディア

ペンタゴン・ペーパーズ 映画で描かれない「ブラッドレー起用」秘話

2018年3月31日(土)12時05分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

結局のところ、ベンでさえも事があまりにも急速に展開したのに驚いた。彼が着任してから三カ月後の一一月一五日、ベンがアルに替わってワシントン・ポストの編集局長となることが発表された。発表の中には、アル自身が「経営管理業務から外れ、全国的および国際的事件の取材・執筆という古巣に戻ることを希望した」という内容も含まれていた。アルはポストの副主筆となり、引き続いて副社長と役員会メンバーを兼務することになった。

アルおよびジーンとの関係は損なわれ、苦いひずみが残ったが、彼ら夫妻は努めて以前と同様に礼儀正しく私に接してくれ、週末にグレン・ウェルビーの家まで来てくれさえした。奇跡のように思えたのは、アルが大物の一流記者として蘇り、人生を再構築したことである。幸いなことに、アルは会社の株式を多数所有しており、かなり裕福だったので、ロンドンにマンションを買い、トルコの別荘はそのまま所有し、ジョージタウンの広大な家も持ち続けることができた。最も重要なことは、ワシントンでの居心地が良くなかったために、彼はしばしば海外に出かけて記事を書くようになったことである。そして、海外において彼はジャーナリストとして最も重要な仕事の数々を成し遂げ、中東六日間戦争の報道記事に対しては、ピューリッツァー賞を受賞することになる。

歳月を経て、私たちの関係は元の親しさに戻った。これはまったくアルとジーンの人徳によるもので、終生私に対して不満を抱き続けても当然だったにもかかわらず、彼らの心はあまりにも寛容で、そのような方向には決して向かわなかったのである。後年、あの配置転換に際して、二つの後悔が残るとして、アルは次のように書き送ってきた。「一つは、私自身の方から自発的に決断する知恵がなかったこと、もう一つは、事が決まった後、自分自身を見失ってぶざまな態度を取ってしまったことです」。これは実質上解任された人としては並はずれた非凡な人格の持ち主の言葉だと、私は今でも思っている。

皮肉なことには、ベンの就任発表の直前、一一月二日に、アルは「ワシントン・ポストはどこへ向かうのか」と題するメモを私に提出していた。このメモは、「幸運と良き経営に恵まれて、ポストを世界一の新聞にする条件は、現在すべて整っている」と書き始められていた。七ページにわたるメモは、次のような「最後の言葉」によって締めくくられていた。「現在の状況から、『最高』となるためには、非常に苦しい決断の数々を強いられることになる。究極的な意図や目標の取りまとめ、経費に関する決定など、最も困難な決断は、もちろんあなた自身が行うことになる。これらの決断は決して容易なものではなく、穏やかに終始するものでもなく、また一夜にして到達し得るものでもないだろう」

あらゆる点で、彼の指摘は的を射ていたのである。

※シリーズ第1回はこちら
※シリーズ第2回はこちら


『ペンタゴン・ペーパーズ――「キャサリン・グラハム わが人生」より』
 キャサリン・グラハム 著
 小野善邦 訳
 CCCメディアハウス


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック反落、ハイテク株に

ビジネス

米ISM製造業景気指数、6月は49.0 関税背景に

ビジネス

米5月求人件数、37.4万件増 関税の先行き不透明

ワールド

日本との合意困難、対日関税は「30─35%あるいは
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    未来の戦争に「アイアンマン」が参戦?両手から気流…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中