最新記事

米メディア

ペンタゴン・ペーパーズ 映画で描かれない「ブラッドレー起用」秘話

2018年3月31日(土)12時05分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

私が最も望んでいたのは、タイミングの問題が後にずれ込むことだった。アルを追い出すことになるような問題を考えたくはなかったので、事がなんとなく穏やかに過ぎ去ってくれないかと望んでいた。しかしベンに関するかぎり、事はそう穏やかには進まなかった。その秋、アルとジーンがトルコでの夏休みを終えて帰ってくると、私はポストの将来について再びアルと話を始めた。アルは、私が示唆したように、ウォルター・リップマンと昼食を兼ねて話をすることにしたという。ウォルターの方も私を電話口に呼んで「どこまで話したらいいと思う?」と尋ねてきた。私は、彼がその場で言えると思う限りのことを話してほしいと、次のように言った。「その場の感じで、行ける所まで行ってちょうだい」。私が意図していたのは、ウォルターも同じことを考えていたと思うのだが、アルに対して新聞の欠点について述べ、新聞を向上させるのに何ができるかを話すことだった。その他には、含むところはまったくなかった。

昼食の後で電話が鳴りウォルターが出て、「まあ、話が非常にうまく進んだので、全部片付けてしまったよ」。その表現を高校以来聞いたことがなかったので、私は心配になって尋ねた。

「その、『全部片付けた』ってどういう意味?」

「ああ」、彼は答えた。「経営管理の仕事は人間をすり減らすから、辞めて、原稿書きの仕事に戻ることを考えなければならない時が来るもんだ、と言ったのさ」

私は啞然とした。ウォルターがそこまで話すとは思ってもいなかったのだ。ベンが参加してからまだ三カ月しかたっていない。そして、アルをそんなに早く無理に移動させるつもりはなかった。あの強引なベンでさえ、丸一年は当然かかると考えているし、私はもっと長くかかることを予想していたのに。

私には知らせずに、ベンはいろいろと異なった方向からも圧力をかけていたに違いなかった。そして、もちろんアル自身とも、今後の状況について話し合っていたのだろう。彼の性急さは、ロンドンのサンデー・タイムズの特派員ヘンリー・ブランドンが本社の編集者デニス・ハミルトンにあてて書いた手紙からも見て取れる。日付は一〇月一二日である。「ベン・B〔ブラッドレー〕の主張によれば、アルが未だに現職に留まっており、彼に聖なる牛を殺させるような状況には耐えられないので、ベン・Bは二カ月以内に上層部の決断を強く求めるつもりのようだ」

ベンの圧力はあったのかもしれないが、私としては古くからの親友に対して、そんなに唐突に面と向かって現職から退いてくれと頼むことはできなかった。しかし、ウォルターが実際のところ「全部片付けた」話をしてくれ、私自身もその頃には関係者全員にとってそれが最上の策ではないかと考えるようになっていたので、人事の変更に手をつけることにした。私にとってはかなりの勇気を要することだった。

ウォルターと電話で話し終えて受話器を置こうとした時、アルが青白く硬直した表情で私のオフィスに入ってきた。アルは言った。「これは君の望んだことなのかい?」。もう引き返すことは不可能だった。非情な決断はすでに下されていたので、私は淡々として言った。「そう、残念だけど、そういうことなのよ」。公平に見て、確かに正義は彼の側にあった。彼は言った。「君の口から直接聞きたかったよ」。その時、彼に事情を説明したかどうかについてはまったく記憶がない。しかし、私たち双方が感じた苦痛は未だに心の中に残っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

「ガザは燃えている」、イスラエル軍が地上攻撃開始 

ビジネス

英雇用7カ月連続減、賃金伸び鈍化 失業率4.7%

ワールド

国連調査委、ガザのジェノサイド認定 イスラエル指導

ビジネス

25年全国基準地価は+1.5%、4年連続上昇 大都
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中