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元東方神起のジェジュンやノーベル賞作家のハン・ガンが紹介...美学者の日記の言葉が感性のある人の心を打つ理由

2025年4月23日(水)17時30分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

【204】:病院に行ってきた。結果が良くない。期待をかけた免疫治療は効果がなかった。腫瘍はこの間(かん)に増大し、入院の指示を受けた。帰り道、夜の散歩をする。風は爽やかで清らかで優しい。空にぐるぐる回るトンボたちが賑やかだ。世界は相変わらず美しい。わたしはこの世を最後の最後まで愛するだろう。それだけがわたしの存在かつ真実であり義務だ。(出典:同書)〉

いよいよ死の気配を悟った美学者の矜持は凄味を帯びながらも透き通っていく。作曲家や演奏家などの生前最後の作品、曲、演奏のことをスワンソングという。死ぬ間際の白鳥は最も美しい声で歌うという伝説から生まれた言葉だ。美学者キム・ジニョンもスワンソングを歌い上げる。

【226】:調和。争わないこと。(出典:同書)〉

【231】:去っては戻り、また去って。(出典:同書)〉

【234】:わたしの心は穏やかだ。(出典:同書)〉

『朝のピアノ』が多くの読者の心に響いたのは、本書がただ悲しく苦しいだけの闘病記ではなかったからだ。生と死、美と愛について深く思索した哲学的な作品として、いまもなお、韓国では多くの本スタグラマーたちがキム・ジニョンの言葉を紹介している。意識混濁状態に入る直前まで書き続けられた日記は、一人の美学者として、否、個人として威厳を保ち続けた人間の生の記録である。


キム・ジニョン(Jinyoung Kim)

哲学者/美学者 高麗大学ドイツ語独文学科と同大学院を卒業し、ドイツのフライブルク大学大学院(博士課程)留学。フランクフルト学派の批判理論、特にアドルノとベンヤミンの哲学と美学、ロラン・バルトをはじめとするフランス後期構造主義を学ぶ。小説、写真、音楽領域の美的現象を読み解きながら、資本主義の文化および神話的な捉えられ方を明らかにし、解体しようと試みた。市井の批判精神の不在が、今日の不当な権力を横行させる根本的な原因であると考え、新聞・雑誌にコラムを寄稿。韓国国内の大学で教鞭をとり、哲学アカデミーの代表も務めた。バルト『喪の日記』の韓国語翻訳者としても知られる。

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『朝のピアノ 或る美学者の『愛と生の日記』』
キム・ジニョン[著]
小笠原藤子[訳]
CEメディアハウス[刊]

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