最新記事

教育

「脳まで筋肉の柔道選手」と中傷された彼女が医学部合格を果たした、たった一つの理由

2021年11月30日(火)19時15分
朝比奈 沙羅(柔道選手) *PRESIDENT Onlineからの転載

朝比奈沙羅選手と父の輝哉氏

体のバランスを整えるためのボールトレーニングや水泳など様々な競技を取り入れた練習には輝哉氏も付き合う。 撮影=市来朋久

一方で、沙羅選手の適性を見るため、小さい頃から、輝哉氏が行う動物実験を見学させたり、マウスの解剖や実際の医学シミュレーション体験も続けていたという。

「朝比奈家の家訓のもう一つに『本物志向』というのもあります。子供向けの職業体験施設に連れていっても、本当のモチベーションを持たせることはできないと私は考えています。やっぱり本物を見せなければダメ。それと、今の医療界に対する問題意識もありました。厳しい状況になると患者に寄り添うどころか逃げだす研修医を少なからず見てきました。勉強ができるだけで、適性を欠いたまま医学部を受験した結果ではないでしょうか。上司に頼み込んで、中学生の沙羅をオペ室に入れ、本物の手術を見せたこともあります」(輝哉氏)

"輝哉流"はどこまでも徹底していた。

本気で「いつか父を殺してやる!」と思っていた

さて、これほど強烈な父のもと、娘はどんな思いで子供時代を過ごしてきたのか。どうやら沙羅選手はスパルタ教育に唯々諾々と従う、いわゆる"いい子"ではなかったようだ。

「それどころか、むしろ反骨精神だけで生きてきたように思います。小さい頃は本気で、『いつか父を殺してやる!』と思っていました。こういう親子関係は決してお勧めしませんが(笑)」(沙羅選手)

中学生のとき、こんなことがあった。古典の宿題を白紙で提出しようとしていた沙羅選手を見て、父が叱責すると、「古文の辞書がないからわからない。もう夜も遅くて辞書も手に入らないから、諦めるしかないよ!」と沙羅選手。

いつも怒鳴る父が静かに言った。

「この時間でもやっている本屋をネットで調べろ」

数軒の本屋が見つかる。父と娘は夜道を歩き、3軒目でやっと古語辞典を買うことができた。家に戻り、40分かけて宿題を終わらせた娘に父は言った。

「なんとかなったじゃないか。最後の最後まで諦めるな!」

わんわん泣きながら、娘は父に向かってこう言い放った。

「今日は負けたって感じかな!」

沙羅選手は父が恐ろしくて、その方針に従ってきたのではなく、輝哉氏に負けたくないからこそ、父の出す無理難題に立ち向かってきたのである。

高3の受験期は柔道特訓2時間、医学部受験勉強11時間

朝比奈沙羅選手高3になり、いよいよ柔道と医学部進学の二刀流の真価が問われる時期となった。

「本当に大変でした。春夏は高校の大会。秋は全日本の大会。そして冬は国際大会。柔道にはオフシーズンがありません。練習2時間、勉強11時間という毎日でした。しかもケガが多くて、柔道も思うようにできなかった。もう本当に疲れ果てて、『私、今まで洗脳されたみたいに医学部を目指してきたけれど、大好きな柔道を犠牲にしてまで本当に医学部に入りたいのか?』っていう気持ちになったんです」(沙羅選手)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

国連安保理、北朝鮮の人権問題巡り公開会合 中国・ロ

ワールド

ゼレンスキー氏がサウジ皇太子と会談、平和サミットな

ワールド

2023年の米医療費、7.5%増の4.8兆ドル G

ビジネス

ホンダが日本でEV展開本格化、10月に軽商用投入
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 2

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「勝手にやせていく体」をつくる方法

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    長距離ドローンがロシア奥深くに「退避」していたSU-…

  • 5

    謎のステルス増税「森林税」がやっぱり道理に合わな…

  • 6

    【衛星画像】北朝鮮が非武装地帯沿いの森林を切り開…

  • 7

    バイデン放蕩息子の「ウクライナ」「麻薬」「脱税」…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が妊娠発表後、初めて公の場…

  • 9

    たった1日10分の筋トレが人生を変える...大人になっ…

  • 10

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 1

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 2

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...? 史上最強の抗酸化物質を多く含むあの魚

  • 3

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 4

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 5

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らか…

  • 6

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 7

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 8

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が妊娠発表後、初めて公の場…

  • 10

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 10

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中