最新記事
注目ニュースを動画で解説

日本は単なる下請けじゃない... 初任給「大卒で28万円」TSMC熊本工場の衝撃と日本進出の狙い【アニメで解説】

2024年4月3日(水)19時40分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
TSMC

Newsweek Japan-YouTube

<日本に進出したTSMCの狙いについて解説したアニメーション動画の内容を一部紹介する>

AIやEVなどに欠かせない半導体の生産・確保に各国がしのぎを削っている。半導体生産の圧倒的シェアを占める台湾積体電路製造(TSMC)の熊本工場が2月24日に始動したが、そこには戦略上どんな狙いがあるのか──。

TSMC取材歴30年の台湾人ジャーナリスト、林宏文(リン・ホンウェン)の著書『tsmc 世界を動かすヒミツ』(CCCメディアハウス)から、その理由を探る。

本記事では、本誌YouTubeチャンネルの動画「TSMCが人材を独占し、日本企業は生き残れなくなる? 高給だけじゃない「熊本工場」の衝撃度【アニメで解説】」の内容をダイジェスト的に紹介する。

 
◇ ◇ ◇


2022年の春に半導体工場の建設が始まって以来、人口4万人ほどの静かな地方都市だった熊本県菊陽町は様変わりした。この工場とは、ソニーとデンソーが共同出資したJASM(ジャパン・アドバンスト・セミコンダクター・マニュファクチャリング)だ。

投資総額約86億ドルのうち、日本政府からの補助金は最大4760億円。日本最先端の半導体工場となるだけでなく、過去最大の半導体投資プロジェクトでもある。

TSMCは中国とアメリカと日本で大型工場を建設しているが、JASMは現時点でTSMCが顧客と共に設立した唯一の合弁会社だ。

熊本県菊陽町

日本は安倍政権時からTSMCに対して工場誘致を働きかけてきた。後れを取っている半導体製造技術をキャッチアップさせ、より即時的な現地供給を実現できるようにしたいという期待が日本側にはある。

安倍晋三とTSMC

TSMCの側からすると、JASMへの投資とアメリカへの投資は少し様相が異なっている。

シーシー・ウェイ(魏哲家)CEOは、日本は生産コストが低い場所ではないと言う。その日本に工場を設置するのは「ある顧客をどうしても支えなければならない」からだという。「ある顧客」はTSMCの主要顧客アップルのサプライヤー、つまりソニーのことだ。

ソニーを支えるために日本に工場を構えるのは、アップルを支えるのとイコールなのだ。

TSMC

21年の日本の1人当たりGDPは3万9800ドル。アメリカは7万ドル以上で、台湾は約3万3000ドルだった。台湾の1人当たりGDPはここ数年で急成長しており、多くの専門家が24年頃には日本に追い付く見通しを立てている。一方で、日本人の給与は少しずつしか上がらない。

熊本県が21年4月に地元企業を対象として行った調査では、大卒エンジニアの平均初任給は19万円。一方、JASMが提示した初任給は大卒が28万円、修士が32万円、博士が36万円と地元水準をはるかに上回っている。

TSMCの給与

TSMCは日本に対し、熊本の12インチ工場以外にも、横浜と大阪へのIC設計センター、茨城県への3次元IC先端パッケージング研究開発センターの設置と、かなり包括的な投資を行っている。

IC設計分野では、19年から東京大学と先端半導体の技術提携を行っており、20年には横浜に最初のIC設計センターを、22年末には大阪に2つ目のIC設計センターを設立した。

こうしたことから分かる通り、TSMCは日本の顧客とより深いパートナーシップを結ぶだけでなく、設計やパッケージング・検査、より高度なプロセス等を研究開発し、人材を増員するための重要な海外拠点と見なしている。

TSMC

■より詳しい内容については動画をご覧ください。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・メキシコ首脳が電話会談、不法移民や国境管理を協

ワールド

パリのソルボンヌ大学でガザ抗議活動、警察が排除 キ

ビジネス

日銀が利上げなら「かなり深刻」な景気後退=元IMF

ビジネス

独CPI、4月は2.4%上昇に加速 コア・サービス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ナワリヌイ暗殺は「プーチンの命令ではなかった」米…

  • 10

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中