コラム

世界的人気のニセコ、TSMC進出の熊本...「ラーメン1杯3000円」でも、決して「バブル」ではないワケ

2024年02月29日(木)17時05分
世界の中で日本は「安い国」に

BLUE PLANET STUDIO/GETTY IMAGES

<「外国人バブル」という認識は間違い。彼らにとって普通の経済活動が、「安い国」日本では過剰消費に見える状況をどう考えるか>

外国人スキーヤーが押し寄せる北海道のニセコや台湾TSMCが工場を建設した熊本、中国人投資家が不動産を高値で購入する東京など、外国人による消費や投資で「バブル」が起こっていると報道されている。だがこれらの動きはバブルではなく、豊かな外国人が日本で安い買い物をしているにすぎない。

日本社会が貧しくなった現実については、多くの人が頭では理解できるようになってきたが、皮膚感覚としてはまだまだであり、外国人によるごく普通の経済活動がバブル的な過剰消費に見えてしまっている。

ニセコは以前から外国人スキーヤーにとって聖地となっており、訪日外国人を目当てにした宿泊施設やマンション建設が相次いでいる。所得水準が高い外国人が主な客層なので、サービス価格も上昇している。ニセコではラーメン1杯が3000円台というケースもあるなど、あたかも物価の高い外国のような状況といえる。当然のことながら、そこで働く日本人の賃金も他地域に比べれば大幅に高い。

台湾TSMCが工場を建設した熊本でも周辺地域が活況を呈している。TSMCが日本人向けに提示した賃金は他の日本企業より圧倒的に高く、台湾本国から多くの社員が来日していることもあり、彼らを目当てにした飲食店などが多数、店を出している。需要に対して人員が少ないため、各店舗の時給もうなぎ上りである。

日本社会が貧しくなり外国人にとって割安に

こうした状況について日本のメディアは総じて「バブル」と報じているが、バブルというキーワードについて、実態を伴わない景気という意味で使っているのなら、これらは決してバブルではない。単に日本社会が貧しくなり、日本の物価水準が低く、外国人から見れば割安になっているというだけの話である。

都心の不動産を中国人が買いあさり、価格がつり上がっているという話もまことしやかに報道されているが、実態は異なる。他の先進国はあまりにも不動産価格が高いので、資金力の乏しい外国人投資家が、仕方なく割安な日本の不動産を買っているという面が強い。

残念なことだが、これが今の日本経済の実力であり、私たちはこの現実を受け入れる必要がある。

タイなど東南アジア各国は、外国人観光客や居住者を積極的に受け入れることを成長エンジンの1つとしており、こうした国々では、外国人が行く店と自国民が行く店では、値段が2から3倍以上違うのは当たり前である。当然のことながら外国人が行く店であれば、同じような商品を提供しても2倍以上の稼ぎが得られるので従業員の賃金も高くなり、これが国民の所得向上に寄与している。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アラブ・イスラム諸国、ドーハで首脳会議 イスラエル

ワールド

イスラエル首相、トランプ氏に事前通知 カタール空爆

ワールド

米中、TikTok巡り枠組み合意 首脳が19日の電

ワールド

再送-米、ロ産石油輸入巡り対中関税課さず 欧州の行
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story