最新記事

エンターテインメント

岐路に立つ動画配信ビジネス 「ネトフリに追いつけ追い越せ」は終焉か

2022年8月15日(月)11時54分
ネットフリックスのロゴ

米ハリウッドの今決算シーズンは、ウォルト・ディズニーがストリーミング動画配信サービスの加入者数でネットフリックスを抜き、「ネトフリを目指せ」の時代は終わったようにみえる。写真はネットフリックスのロゴ。4月撮影(2022年 ロイター/Dado Ruvic)

米ハリウッドの今決算シーズンは、ウォルト・ディズニーがストリーミング動画配信サービスの加入者数でネットフリックスを抜き、「ネトフリを目指せ」の時代は終わったようにみえる。ディズニーの健闘ぶりは、ストリーミング産業が拡大を続けるという期待も復活させた。しかし同社が特殊な存在であることを忘れてはならない。

業界は過去数年間、ネットフリックスの成功に倣うことを競い合ってきた。しかしここ2週間の発表を見ると、各社はストリーミングを事業戦略の中心に据えるというよりも、複数ある事業の1つとして位置付けるようになっている。

ワーナー・ブラザーズ・ディスカバリー(WBD)のデービッド・ザスラフ最高経営責任者(CEO)は先週、アナリストに対し「当社には実質的に4つか5つ、6つの収入源がある。変化が激しく不確実性の大きい世の中においては(中略)、収入源を1つに絞るよりこの方がずっと安定感があり、ずっと好ましい」と説明した。

伝統的なメディア企業は直近の決算報告書で、不確実な経済状況を乗り切る上では従来型のテレビ放送のように、縮小はしているが安定的な事業が収益の柱になっていると指摘した。アナリストによると、加入者数の伸びが主な成功指標だったここ数年の流れが終わり、キャッシュフローが再び重視されるようになっている。

ハリウッドにこうした堅実な風潮が広がったのは、物価高騰が消費支出を脅かしているのに加え、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)に伴う加入者の急増が終息したからだ。

ネットフリックスの急減速も影響した。加入者数の伸びが止まり、同社の株式時価総額は昨年11月に付けた3000億ドル余りのピークから約1000億ドルに減少している。

大型シリーズを打ち切るワーナー・ブラザース

苦境はさらに深まる恐れもある。広告データ会社SMIによると、15カ月連続で増加していた全米の広告支出は6月、減少に転じた。背景には景気後退への懸念がある。

合併によって発足したばかりのWBDは先週、映画ストリーミング配信の「HBOマックス」を支えるために伝統的な映画・テレビ事業を犠牲にすることはもうやめると表明。これはストリーミング事業に注力してきた前経営陣に対する痛烈な非難となった。

同社はHBOマックスのSFシリーズ「デミモンド」や、漫画原作映画「バットガール」といった高コストのプロジェクトを打ち切り、第2・四半期に8億2500万ドルの評価損を計上した。

ライトシェッド・ベンチャーズのメディアアナリスト、リッチ・グリーンフィールド氏はワーナー・ブラザーズの動きについて「白旗を揚げたのだろう。完成するための痛みを引き受けられるほどの金銭力がないのだ」と解説した。

バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチのメディアアナリスト、ジェシカ・リーフ・エーリック氏は、WBDが強みを生かす戦略に出たとみる。「メディア企業は全体を俯瞰(ふかん)し、従来型テレビかデジタルかを問わず、全てのプラットフォームで価値が高まっているコンテンツの収益化を試みることが不可欠だ」と述べた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

タイ内閣改造、財務相に前証取会長 外相は辞任

ワールド

中国主席、仏・セルビア・ハンガリー訪問へ 5年ぶり

ビジネス

米エリオット、住友商事に数百億円規模の出資=BBG

ワールド

米上院議員、イスラエルの国際法順守「疑問」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中