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「4K」で高齢化のトラック業界を、輸送需要の急減と宅配需要の急増が襲っている

2021年2月26日(金)17時35分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<かつては「3Kでも稼げた」仕事だったトラックドライバーの現状を、専門記者が裏側まで書いた。実態を知らない我々の目には意外かもしれないが、相反するように思える2つの危機に瀕している>

『ルポ トラックドライバー』(刈屋大輔・著、朝日新書)の著者は、物流専門紙『輸送経済』記者、『月刊ロジスティクス・ビジネス(LOGI-BIZ)』副編集長などのキャリアを経てきたという実績を持つ物流ジャーナリスト。

浪人時代、「短期間で稼げる」という理由から佐川急便でアルバイトをしたことが、物流業界と接点を持つきっかけだったという。


当時、トラックドライバーの仕事は確実に稼げる商売だった。「きつい、汚い、危険」の3K仕事である代わりに、高い報酬が約束されていた。トラックドライバーの花形とされる長距離輸送の仕事では、年収が一〇〇〇万円を超えるケースもあった。(「まえがき」より)

そのため、体力にも自信があったし、もし大学受験に失敗したら正社員ドライバーになればいいと考えていたそうだ。ところがそれから30年が経過し、トラックドライバーの労働環境は一変した。

早い話、「3Kでも稼げた」はずが、「3Kなのに稼げない」仕事になってしまったということだ。それどころか、3Kに「稼げない(KASEGENAI)」の頭文字を加えて「4K仕事」だと揶揄する人すらいるのだとか。


 厚生労働省の調査によれば、二〇一九年度、大型トラックドライバーの年間所得額は四五六万円、中小型トラックドライバーは四一九万円。全産業平均の五〇一万円と比較すると、大型ドライバーで約一割、中小型ドライバーで二割ほど低い。つまり、トラックドライバーは、このおよそ三〇年の間に、きつくて稼げる仕事から、きついにもかかわらず稼げない職業に転落してしまった。(36ページより)

そんななか、トラック業界は重要な問題を抱えることにもなっていった。ドライバーの高齢化だ。現在、トラックドライバーの約7割は40代以上であり、全体の15%を60代以上が占めるようになっているのだ。

しかもトラックドライバーは、まず小型トラックで運転のノウハウや経験を積み、そこから中型トラック、大型トラックへと業務をシフトしていくのが通常の道筋となっている。

したがって、特に高齢化の進む大型トラックの長距離ドライバーを安定的に確保していくためには、キャリアとしての出発点である小型トラックのハンドルを、いかにして若年層に握らせるかがポイントとなるのだ。

そのための法改正も進められているというが、そもそも現代の若者は自動車の運転や免許取得に対して関心が希薄だ。そう考えると、法改正ではどうにもならない問題が残されているようにも思える。

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