特別リポート:「スバル」快走の陰で軽視される外国人労働者

2015年7月29日(水)12時51分

こうした問題について、富士重工は「取引先の労働環境管理は基本的に各取引先の責任で行っており、当社が直接的に関与することはない」との立場をとっている。ロイターの問い合わせに対し、同社は書面回答の中で、法律や企業内のガイドラインに従うことが同社と取引するための前提条件だ、と述べた。同社はまた、派遣会社の行動を監視する権限はないとし、「ただし当社として、客取引先に、ガイドラインで定める差別撤廃・人権尊重・法令順守に沿った対応をお願いしている」と説明している。

「灰色」の供給ルート

同社のサプライチェーンにおける労働実態は、人口縮小で労働市場がひっ迫し、移民労働者に対する法律上の壁が依然高い日本特有の事情が生んだ副産物といえる。同社や系列サプライヤーなど人手不足に直面している企業は、工場の作業員を確保するため、難民申請者やビザ(査証)切れ不法滞在者、アジアからの技能実習生といった「裏口ルート」の移民労働者に頼らざるを得ない。「灰色」の労働市場が存在するおかげで、建設業、農業、製造業などは数多くの外国人労働者を安い賃金で雇うことが可能になっている。

同社は、政府が行っている外国人技能実習制度にそって、339人の中国人を受け入れている。この制度は、発展途上国の労働者に日本の製造現場で産業技術を習得してもらうことが目的だ。

この制度の参加者には、自国の送り出し機関に日本円にして約37万円もの手数料を払い、借金を抱えて日本にやってくる人々が少なくない。日本に来ても、研修先の企業を変更できないという制約に直面する。国連と米国務省は日本の技能実習制度について、今年の報告で、一部の研修生が「いまなお強制労働の状況にある」と厳しく指摘した。

海外からの技能実習生の採用は、労働力不足を一時的に補完する方策として、これまでも農業や繊維産業などの現場では20年以上にわたって続けられてきた。ロイターの取材で、その制度が大手輸出企業によって製造業の作業現場にも組み込まれていることが明らかになった。

富士重工と系列サプライヤーにとって、製造拠点である太田市で十分な労働力が確保できなければ、大きな問題が生じる。過去20年あまりで最も厳しい人手不足が続く中、外国人の雇用がその重要な対策となった。

スバルのサプライチェーンにおける外国人作業員の数について公式のデータはない。しかし、ロイターが各企業、派遣会社や労働者らへの聞き取りにもとづいて把握した外国人作業員の数は、太田市内にある富士重工の部品サプライヤー4社で、少なくとも約580人にのぼった。これら4社で働く合計およそ1830人の30%にあたる規模だ。

「灰色」労働市場からスバル系列メーカーに流れ込む労働者の中で、最も大きな比重を占めているのが難民申請者だ。日本において、難民資格を求めている外国人は大きく二つに分けられる。数が多いグループは、半年ごとの資格更新を条件に日本での就労が許可されている人たち。一方、入国者収容所から仮放免され、そうした許可無しに働いている難民申請者もいる。日本の法律は、こうした仮放免者であっても、難民申請が審査されている間は国内滞在を認めているが、就労は許していない。

就労できない仮放免者が暮らしていくには、親族や友人、地元の慈善団体などからの生活保障を受けることが必要だが、それができず「違法な」労働に走る例は後を絶たない。小川秀俊・外務省領事局外国人課長は、仮放免を長期間の拘束を避けるための人道的な措置だとする一方、出国を命じる判決がでたら「出国するのが本来あるべき姿だ」と語った。

「仕事に行けないならクビ」

難民申請者や技能実習生として日本にやってきた外国人労働者は、いまどのような状況に置かれているのか。スバルの製造拠点である太田市でロイターがインタビューした人々の言葉を聞いてみよう。

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