特別リポート:「スバル」快走の陰で軽視される外国人労働者

2015年7月29日(水)12時51分

ネパール出身のリジャル氏は、自身を含めた難民申請者や他の外国人労働者とともにスバルの下請けメーカー、日本発条(ニッパツ)<5991.T>で働き、毎日手作業で数百個のヘッドレストに革を押し込む仕事をしていた。生産ラインで作業する者の多くは、爪がはがれ、一日の仕事が終わると過労のために拳を握れなくなる者もいた。

同氏は今年1月、起床時に激しい腰の痛みと右足のしびれに襲われた。ニッパツを紹介した派遣業者から、仕事に行けないならクビ、という最終通告を受けたという。動くこともままならず、職を失った。

病院のカルテによると、リジャル氏は椎間板ヘルニアで3月12日に手術を受けている。現在、地元病院の治療費とネパールにいる仲介業者への支払いで約9000ドルの借金があるという。

「ネパールにいる妻とスカイプで話すときは3分で切り上げる」と9歳の娘をもつ同氏は話す。「妻の泣き声を聞くのはもう堪えられない」

ニッパツは、ロイターの質問に対し、同社工場で難民申請者を直接雇ったことはなく、質問は労働者を集めた派遣会社にすべきだと話した。ニッパツの企画本部広報部課長、斉藤浩明氏は電話での取材に「これは派遣会社の問題だ。うちは直接雇用しているわけではない」と答えた。

リジャル氏を紹介した派遣会社、ヒカリ商事を運営する仲松英邦(オズワルド・ナカマツ)氏は取材に対し、解雇による脅しを否定、リジャル氏が帰国して治療することを望んだとし、彼が政府からの離職手当を受け取れるように解雇したと語った。これに対し、リジャル氏は、帰国の意思を示したことはないといい、一切の給付を受けていないとしている。

これについて、富士重工はロイターへの書面回答で、リジャル氏には、もともと腰に持病があり、本人から「自国にもどって手術する」との申し出が派遣会社にあった、と指摘。「日本発条での作業による発症ではなく、労働災害には当たらない」との認識を示した。

欲しいのは「人間としての待遇」

スバルの系列メーカーで働くバングラデシュ人のアブ・サイド・シェク氏(46)は「違法労働」の状態にある。入国者収容所から仮放免されている立場ながら、同氏は週に6日、1日最大12時間もダッシュボード部品や他の内装パーツの塗装作業を行っている。彼自身がスマートフォンで撮った自分の写真には、塗料の臭いを防ぐためにマスクをしている姿が映っている。その場所については本人が特定しないことを希望した。

同氏は、ダッカの裁判資料の英訳によると、本国で爆発物に関する法律違反で起訴された。難民認定申請書で、同氏は容疑がねつ造であり、野党のメンバーだったために標的にされたのだと主張している。法務省の書簡によると、2度目の難民認定申請は2012年に却下された。同氏はその後も再度申請し、最終判断を待っているという。

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