最新記事

スマートフォン

サムスン「史上最大のスマホ」の勝算

「大型」新製品がブームだが、iPhoneの独走は止められない

2012年3月21日(水)13時51分
ファハド・マンジュー

デカ! 5.3インチ大画面のギャラクシーノートがアメリカに上陸 Lee Jae Won-Reuters

 先週末にアメリカでも発売されたサムスンの「ギャラクシーノート」は史上最大のスマートフォン。「スマホでもない、タブレットPCでもない」との触れ込みで、横が約8.3センチ、縦が約14.7センチ。このギャラクシーノートを筆頭にスマホの大型化競争が繰り広げられている。

 どう考えても理屈に合わない。デカいスマホは携帯に不便で、片手で持ちづらく、バッテリーも早く消耗しがちだ。薄くて大きいから、耳に当てているときに突風でも吹けば、あおられて吹き飛ばされそうだ。強みといえば、ポケットから取り出したときの優越感くらいしかない。

 アメリカではギャラクシーノート発売まで、ギャラクシーネクサス(やはりサムスン製でグーグルの携帯用OS「アンドロイド」を搭載)が最大のスマホだった。横約6.8センチ、縦約13.5センチとアップルのiPhone(横約6センチ、縦約11.5センチ)の1・3倍以上だ。

 ある研究によれば、人間の手のひらの幅は普通、男性で8.4センチ、女性で7.4センチくらい。これより大きくても持てないことはないが、やはり疲れやすい。その点、ギャラクシーネクサスはやや大き過ぎる。モトローラのドロイドXやドロイドレーザー、HTCのタイタン、ノキアのルミア900なども、横7センチ前後ある。

 少し前までは誰もがより小さいスマホを欲しがったのに、なぜ急に大きいスマホが注目されているのか。それは1つには流行、1つには他社との競争、1つには技術が原因だ。

 80年代に登場した初期の携帯電話はどれも巨大だった。83年に発売された世界初の一般消費者向け携帯電話、モトローラのダイナタックは縦33センチ、横9センチ近く、厚さ4センチ余りあった。不格好だが4000ドルもしたので、持っていることがステータスになった。

 それからの20年は、部品を小型化して携帯電話をより小さくすることが技術上の主要な課題となった。その結果、新しくて、より高価で、誰もが羨む製品は少しずつ小さくなっていった。

差別化のための大型化

 しかし2000年代を迎える頃には、小型化が限界に達した。手のひらよりはるかに小さいスマホを作ることも技術的には可能だが、ほとんどの場合、メーカーは手の大きさに合う設計に落ち着いた。

 iPhoneはタッチスクリーン採用の流れを生み、業界全体の手本となったかに思えた。07年にiPhoneがリリースされてから数年間は、タッチスクリーン式のスマホの最上位機種はほとんどがiPhoneくらいの大きさだった。

 そうなると、どの製品もデザインは似たり寄ったりになってしまう。過去数年間、スマホ市場の競争が激化するなかで、メーカー各社は他社との差別化を必要としていた。

 一方、液晶パネルのコストが下がったおかげで画面の大型化が可能になった。大型化すれば第4世代の高速通信技術LTEに対応できたり、アンドロイドの画面解像度を上げてもアイコンやフォントが小さくならないといったメリットも指摘されている。そこで特にアンドロイド携帯のメーカーが、差別化のため大型化に走った。

 デカくても問題ない、大きい画面は最高だ、というユーザーも少なくないだろう。好みは人それぞれだ。
それでもあえて言おう。今のところ世界で最も売れているiPhoneは発売当初からサイズを変えていない。ライバルも見習うべきだ。大きいことはいいことだ......とは限らない。画面が大きくなるほど操作性は落ちる。目立つスマホより、売れるスマホを作るべきだ。

© 2011 WashingtonPost.Newsweek Interactive Co. LLC

[2012年2月29日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中