最新記事

米外交

オバマのトップセールスで変容した米印関係

5万人の雇用に相当する100億ドルの対インド輸出を恵んでもらったアメリカ。インドとの立場は逆転した

2010年11月9日(火)18時29分
ジェーソン・オーバードーフ

蜜月 オバマはインドの国連安保理常任理事国入りへの支持を明らかにした(ニューデリー、11月8日) Jason Reed-Reuters

 インドを訪問中のバラク・オバマ米大統領は、国連安全保障理事会の常任理事国入りを目指すインドを支持することを初めて公式に表明した。しかし「今後数年で国連安保理の改革があり、インドが常任理事国になることを楽しみにしている」というオバマの表現は、インドの指導者にとってはそれほど強い意味を持つものではなかっただろう。

 それよりも、オバマが「セールスマン大統領」の役割を果たしたことのほうがずっと意味がありそうだ。オバマ訪印でアメリカが手にした経済面での成果は、外交交渉や戦略的パートナーシップをめぐる約束以上に米インド関係に大きな変化をもたらすだろう。というのも、今回はアメリカからインドに助けを求める形になっており、それが2国間の力学を変える可能性があるからだ。

 インドのマンモハン・シン首相との共同記者会見(11月8日)で、オバマはインドを「今の我々が抱える諸問題を解決する上で欠かせない」存在だとし、アメリカの訪問団がムンバイで締結した商取引を後押しする様々な政策を打ち出した。軍事転用の恐れがある宇宙産業や防衛産業向け先端技術の対インド輸出規制を撤廃する、といった重要合意ですら、貿易を促進するための譲歩のように見える。

「不均衡な関係が多少は是正されたという見方がある」と、民間シンクタンクの政策研究センター(ニューデーリー)のプラタップ・バーヌ・メータ所長は言う。「互いに依存する2国間にあるべき『ギブ・アンド・テイク』の関係だ。その点では、大幅な心理的変化がある」

インドはもう新興国ではない

 オバマはアメリカに合計100億ドルの対インド輸出計画を持ち帰り、これで5万人以上の雇用が創出されると見込まれる。しかもこれは氷山の一角に過ぎない。インド産業連盟の最近の報告書によれば、アメリ製の武器や核関連設備、民間航空機の対インド輸出によって、アメリカでは今後10年にわたって70万人の雇用が生まれるという。

 では、アメリカからインドに与えられるものは? まずは輸出規制撤廃や、原子力技術の輸出管理にあたる「原子力供給国グループ」へのインドの正式参加を支持すること。さらにオバマとシンは両国が宇宙開発やクリーンエネルギーの研究、健康、農業、高等教育の分野で協力を拡大することに合意した。今後は代替エネルギーの共同研究センターや疾病対策の共同研究センターをインドに開設したり、農業分野ではインド版「緑の革命」の再活性化に取り組むことになりそうだ。

 しかし、米印関係における最大の前進はこうした具体的成果ではない。財界代表団のトップ――それもアメリカ製品を売り込むのが目的だ――としてインドを訪問したオバマが、世界を舞台にしたインドの野心とそれを成し遂げる能力を認識したことのほうが大きい。

 出版社マグローヒル・カンパニーズのハロルド・マグローCEOは、「オバマはアメリカを必死に売り込んでいた。まさにトップセールスだ」と述べている。その姿勢は、「インドは台頭しつつある新興国ではなく、既に台頭した大国」だとオバマが考えていることを如実に表している。

「ウィンウィン」のビジネス関係が外交も変える

 インドは90年代の中国のように、その経済力と巨大市場の魅力を生かしてアメリカから様々な譲歩を引き出していくのか? それとも共依存の米中関係とは対照的に、自立しながらも影響し合う、バランスの取れた米印の経済関係を構築することを目指すべきなのか?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベトナム国会議長、「違反行為」で辞任 国家主席解任

ビジネス

ANAHD、今期18%の営業減益予想 売上高は過去

ワールド

中国主席「中米はパートナーであるべき」、米国務長官

ビジネス

中国、自動車下取りに補助金 需要喚起へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中