最新記事

アップルのいつか来た道

アップルの興亡

経営難、追放と復活、iMacとiPad
「最もクールな企業」誕生の秘密

2010.05.31

ニューストピックス

アップルのいつか来た道

マッキントッシュの敗北から学ばなければ、iPhoneはアンドロイド端末の大攻勢にのみ込まれるだろう

2010年5月31日(月)12時03分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

 私が新米のテクノロジー担当記者だった頃、業界の最先端を走っていたのはミニコンピューターに取って代わろうとしていたデスクトップパソコンだった。今日、注目はスマートフォンと呼ばれる携帯情報端末に集まっている。その新しい市場の動きを見ていると、往年の名作を若手俳優でリメークした映画を見ているようだ。

 デスクトップの黎明期と同じように、端末はどんどん小型化している。基盤となる技術が急速に進化している点も同じだ。ハードウエアメーカーはどのインターフェースが利用者に支持されるか模索を続け、ソフトウエアメーカーは端末の新しい使い方を次々と提案している。そして最先端の技術革新が市場をリードする企業を脅かすことで、業界地図が塗り替えられようとしている。

 特に私が既視感を覚えるのは、アップルの対応だ。1984年、アップルは初代マッキントッシュを発売。視覚的に操作できる「グラフィックインターフェース」を採用した初の大衆向けパソコンで、業界トップに躍り出た。マイクロソフトがどうにか対抗できるOS(基本ソフト)「ウィンドウズ3・0」でマッキントッシュに追い付くまでに、なんと6年もの時間がかかった。6年間だ!

 この6年間、アップルは市場を独占した。にもかかわらず、現在はマイクロソフトのウィンドウズが世界を席巻し市場の90%以上を独占している。アップルのシェアは世界の5%にも満たない。

OSの非公開は大間違い

 現在の携帯電話市場を見てみよう。2007年6月にアップルはiPhoneを発売した。発売から2年半が経過した今も、革新的なこの端末に太刀打ちできる機種はない。

 スマートフォン市場ではノキアとリサーチ・イン・モーション(RIM)が今も大きなシェアを握っているが、アップルに比べればプラットフォームは時代遅れに感じられる。

 iPhoneはマッキントッシュと同じ運命をたどるのだろうか。勝利の喝采から敗北の屈辱へと転落するのか。それとも過去の経験から学習して勝ち組となるのか。

 マッキントッシュの最大の過ちは、他の企業にOSの使用を許さなかったことだ。その理由は、CEO(最高経営責任者)のスティーブ・ジョブズが、ソフトウエアはハードウエアと一体であるべきだと考える仕切り屋だったから。

 マイクロソフトは正反対の戦略を取り、どのパソコンメーカーにもウィンドウズOSの使用を許可した。これには一長一短がある。マイクロソフトはユーザーの使用感を管理できなかったが、一方で機種の多様性は広がり、価格は下がった。「十分に使える」安価なパソコンは、アップルの完璧だが高価なパソコンに勝ったのだ。

 アップルはある意味、iPhoneで84年を再現しているといえる。アップルはマッキントッシュと同様、iPhoneのハードウエアとソフトウエアを一元的に管理している。一方で、競合他社はマイクロソフトの手法を採用した。その筆頭のグーグルはスマートフォン向けOSの「アンドロイド」を開発し、どの携帯電話メーカーも無料で使用できるようにした。アンドロイドはiPhoneではできないこと、例えば複数のアプリケーションを同時に動かすことも可能だ。

 アンドロイドにもウィンドウズと同じく一長一短がある。機種の多様性が広がり価格が下がる一方、ソフトの安定性は弱いだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

円が対ドルで5円上昇、介入観測 神田財務官「ノーコ

ビジネス

神田財務官、為替介入観測に「いまはノーコメント」

ワールド

北朝鮮が米国批判、ウクライナへの長距離ミサイル供与

ワールド

北朝鮮、宇宙偵察能力強化任務「予定通り遂行」と表明
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中