最新記事

安倍の「功績」にこの男は学べるか

世界が見た日本政治

政権交代をかけた総選挙が迫っている 混迷するニッポン政治の出口は

2009.07.21

ニューストピックス

安倍の「功績」にこの男は学べるか

安倍前首相が幻想を打ち砕いてくれた今、福田は真の成長路線をめざせ

2009年7月21日(火)19時05分
ピーター・タスカ(投資顧問会社アーカス・インベストメント共同創設者)

 先日、日本企業が従業員を低賃金で再雇用しているという記事を読んだ。最先端を行くのはファストフード業界で、京都のある店舗には85歳の店員もいるらしい。日本の労働市場の新たな「柔軟性」をたたえる記事だったが、この21世紀版「終身雇用」に、私は日本の急速な衰退と政策の失敗を思わずにいられなかった。

 日本は「失われた10年」に逆戻りしようとしているのだろうか。そう懸念すべき理由はたくさんある。

 一般労働者の給料が上がらないうちに、景気回復の雲行きは怪しくなっている。消費者物価が依然として下落傾向にあるにもかかわらず、日銀は平気で二度の利上げに踏み切った。株式市場では銀行株がつるべ落としに下落。政界ではスキャンダルと辞任劇が相次ぎ、リスクを恐れない起業家たちはメディアに侮辱と非難を受けている。

 こんなはずではなかった。構造改革は「自律的な景気拡大」を生み出したことになっていた。日本はデフレから脱却し、銀行は世界水準の効率性と収益性を生むビジネスモデルをつくり出したはずだった。日本の政治は一変し、首相官邸が神のごとき力を手に入れ、派閥の利害や官僚の干渉は過去のものになった----私たちはそういう話をさんざん聞かされた。

安倍が体現していた日本の現実

 こうした夢のような変化と再生のビジョンを掲げたのは、小泉純一郎だ。小泉のカリスマ性のおかげで、日本だけでなく世界中の人々が、日本の問題は奇跡的に解決したと信じ込んだ。小泉は優秀なセールスマンのように、人々が何を信じたがっているかを直観的に悟っていた。国内外の知識人たちは「新たな日本」の出現を喧伝し、世界中の雑誌の表紙に日の丸が躍った。

 安倍のほうが小泉よりも、はるかに日本の現実に似つかわしかった。日々の仕事と家計のやりくりに悪戦苦闘している多くの日本人と同様、安倍は不安げで疲れきった様子だった。

 小泉は、非現実的だが派手で面白い歌舞伎のようなパフォーマンスを演じた。好対照の安倍は、サラリーマンなら誰でも覚えのあるような苦い経験を味わった。他人の尻ぬぐいをさせられ、信じた同僚に裏切られ、夢は崩れ去っていったのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

神田財務官、介入有無コメントせず 過度な変動「看過

ワールド

タイ内閣改造、財務相に前証取会長 外相は辞任

ワールド

中国主席、仏・セルビア・ハンガリー訪問へ 5年ぶり

ビジネス

米エリオット、住友商事に数百億円規模の出資=BBG
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 7

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中