コラム

今年の米中間選挙はここが違う! 民主党が「多様化」したから共和党が「強い」

2022年11月08日(火)17時45分
ジョー・バイデン

民主党は人工妊娠中絶の権利を訴え支持固めを図った ANNA MONEYMAKER/GETTY IMAGES

<中間選挙は大統領の2年間の業績を評価する「国民投票」。与党が議席を減らすのが常だが、それだけでなく、共和党に構造的な利点がある。さらに今回、アメリカの衰退をも示唆する選挙となった>

アメリカの中間選挙には、建国の父たちの知恵と信念が詰まっている。それは、誰にもチェックできない権力の集積は民主的な共和国にとって最大の脅威であるという固い信念だ。

憲法の起草者たちは人の心の機微に通じていた。有能で志の高い政治家ほど、権力の集積とその行使に走りやすいことを承知していた。

そんな民主主義の腐食を防ぐには、常に権力を分散させておく制度的装置が必要なことも理解していた。異なる権力が絶えず互いに牽制し合うような構造を用意しなければ、ずる賢い政治家とその一派が必ずや民主主義のシステムを悪用し、乗っ取り、人民を抑え込むことになる。

そもそもアメリカは(イギリス的な)君主制への拒絶から生まれた国だから、その政体を定める憲法の枠組みは、君主制に通じる権力の集中を徹底して排除することを目指していた。

この憲法の枠組みで最も注目すべき点は2つある。

1つは、国の諸機関における権力の分散。いわゆる三権分立だ。

具体的には、行政府は立法府が採択した法案を承認も拒否もでき、立法府は行政府の作為を圧倒的多数の議決で覆すことができ、司法府は行政府や立法府の決定を覆すことができる。ただし行政府には司法府を構成する連邦裁判官を指名する権利があり、立法府にはその人事を承認・否認する権限がある。

もう1つは、連邦・州・自治体レベルの政府が競い合う構造だ。どこかの権力が強くなりすぎれば、必ずどこかが権力を奪い返そうとする。

しかしもう1つ、目立たないが権力の独占からこの国の民主主義を守る大事な仕組みがある。大統領と上院議員、下院議員の任期の違いだ。

大統領の任期は4年、上院議員は6年(ただし定数の3分の1ずつが2年ごとに改選される)、そして下院議員は2年と決められた。

4年ごとの大統領選の「中間」の年に行われる中間選挙は、この絶妙な配分の産物だ。大統領の任期の折り返し点で、それまでの2年間の仕事ぶりに対する評価が、民主的な投票を通じて示されることになる。

ずる賢い偽善者が権力を集中させて独裁者となる事態を防ぐために、建国の父たちは知恵を絞り、微妙に公職者の任期をずらした。そのおかげで、この国で最高の権力を持つ人物(大統領)も任期半ばで、民意の審判を受けることになった。

中間選挙とは、大統領の最初の2年間をどう評価するかの国民投票なのだ。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ナジブ・マレーシア元首相、1MDB汚職事件で全25

ワールド

ゼレンスキー氏、トランプ氏と28日会談 領土など和

ワールド

ロシア高官、和平案巡り米側と接触 協議継続へ=大統

ワールド

前大統領に懲役10年求刑、非常戒厳後の捜査妨害など
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 8
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story