コラム

ナチュラルで本物、これがゲイのセクシュアリティの世界

2018年07月11日(水)17時19分

From Matt Lambert @dielamb

<男同士の裸の絡み合いが圧倒的に多いが、卑猥なだけではない。ピュアな感覚や心地良さが際立つ作品を生み出すのは、自身もゲイであるマット・ランバート、36歳の映像作家だ>

作品を数点見ただけで彼の世界に入ってしまった。同時に、懐かしさと嫉妬が込み上げてきた。私がニューヨークに住み始めた80年代後半から90年代、その頃のゲイ・ムーブメント・シーンを思い出したのだ。まだエイズが社会的にホットなイシューであり、LGBTという言葉が全く定着していなかった頃のことだ。

言い換えれば、ゲイたちに対する大きな差別がまだ残っていて、その存在自体がポリティカルであり、彼らのアイデンティティの証しであった。その生きざまはあまりにも格好良く、私はいつのまにか彼らに惹かれ、多くの時間を共にし、数多くの写真を撮っていた。

だが、一定のラインを超えては、彼らの世界に入れなかった。無論、理由はいろいろとあったが、最大の理由は、彼らの多くが本能的に持っていたセクシュアルな親密さの世界を完全には共有できなかったことだ。その素晴らしさを分かっていたとしても、またそれが精神的なものだったとしても、である。

書き出しが長くなってしまったが、今回取り上げるアーティストは、ゲイたちのそんなセクシュアリティを作品の題材にしているマット・ランバートである。

ロサンゼルスで生まれ育ち、現在はロンドンとベルリンの両都市をベースに、ヴォーグ誌、グッチなど、ファッション関係の仕事をメインとしている。ファインアートを学び、その後、映像作家として活動してきたが、自分の世界をより明白にするために写真活動も行い始めたという36歳のアメリカ人だ。

ランバートの作品の多くは、ひとつ間違えば、あるいは表面的に眺めれば、単にダーティーで卑猥なだけで終わってしまうかもしれない。裸の絡み合いが――大半は男同士の絡み合いだが――圧倒的に多いのだ。

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プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

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