コラム

鉄鋼のたたき売りに見る中国の危ない改革先延ばし体質

2016年01月22日(金)18時44分
鉄鋼のたたき売りに見る中国の危ない改革先延ばし体質

河北省唐山の鉄鋼会社の敷地に積み上げられた鉄鋼製品 KIM KYUNG-HOON-REUTERS

 中国がマージンを犠牲にして鉄鋼の輸出攻勢をかけています。背景には過剰生産能力問題があるのですが、その削減は習近平政権の命綱である安定した雇用を損なう可能性があり、大胆に進めることは難しいとみられます。中国による鉄鋼のたたき売りは、改革先延ばし体質がその背景にあり、まだしばらく続きそうです。

 中国の鋼材輸出量が急増しています。中国通関統計によると、2014年は前年比50.4%増の9,379万トン、2015年は同19.9%増の1億1,240万トンと日本の鉄鋼生産量を超えるほどの量となりました。

 その一方で、国家統計局によると、2013年に前年比11.5%増を記録した中国の粗鋼生産量は、2014年は同0.9%増の8億2,270万トン、2015年は同2.3%減の8億383万トンと、頭打ちから減少に転じています。輸出量が急増する一方で、生産が低迷するのは、国内需要が落ち込んでいるためです。中国の実質GDP成長率は2010年の前年比10.6%をピークに5年にわたる低下傾向が続き、2015年は同6.9%にとどまりました。特に、2015年は不動産開発投資の急減速や過剰生産設備を抱える重工業分野の新規投資の落ち込みなどが国内鉄鋼需要の低迷をもたらしました。こうしたなかである程度の設備稼働率を維持するために、中国は鋼材の輸出ドライブをかけているのです。

 中国の鋼材輸出金額は、2014年の前年比33.0%増の708.4億米ドルから2015年は同11.3%減の628.3億米ドルへ減少しました。単価は実に同26.0%の下落です。鉄鉱石価格の下落もあり、マージンが確保できていれば良いのですが、2015年1月~11月の鉄鋼企業の税前利益は前年同期比68.0%減益と全くの不振です。中国の鉄鋼企業はマージンを犠牲にして輸出攻勢をかけているのです。これによって、鉄鋼価格は大きく下落し、日本をはじめ世界の鉄鋼メーカーの収益に逆風が吹いています。供給過剰に起因する鉄鋼価格の値崩れにより、原料の鉄鉱石価格も下落しており、原料を供給する資源国の景気にも大きなマイナスの影響を与えています。

毎年、設備淘汰目標は掲げるものの

 何故、このようなことが起きるのでしょうか?問題の根本は、中国の鉄鋼の過剰生産能力にあります。リーマン・ショック後の世界的景気低迷への対応策として2008年11月に発動された4兆元の景気刺激策によって、中国の粗鋼生産能力は2008年の6.4億トンから2013年には11億トン超へと急速に拡張されました。中国政府は毎年、鉄鋼の設備淘汰目標を掲げ、それが達成できたと胸を張ります。しかし、それは多くの場合、単なる一時休止にすぎないのが現状です。全国レベルで見れば淘汰対象となる旧式設備(工場)であっても、その地方にしてみれば雇用面等で重要な意味を持ちます。旧式設備のスクラップ化による供給過剰の解消は「言うは易し行うは難し」の典型となっています。

プロフィール

齋藤尚登

大和総研主席研究員、経済調査部担当部長。
1968年生まれ。山一証券経済研究所を経て1998年大和総研入社。2003年から2010年まで北京駐在。専門は中国マクロ経済、株式市場制度。近著(いずれも共著)に『中国改革の深化と日本企業の事業展開』(日本貿易振興機構)、『中国資本市場の現状と課題』(資本市場研究会)、『習近平時代の中国人民元がわかる本』(近代セールス社)、『最新 中国金融・資本市場』(金融財政事情研究会)、『これ1冊でわかる世界経済入門』(日経BP社)など。
筆者の大和総研でのレポート・コラム

ニュース速報

ワールド

サンダース氏と討論の可能性、トランプ氏一転否定

ビジネス

米国株式市場は上昇、「利上げできるほど景気改善」と

ワールド

ブラジル夏季五輪は延期か開催地変更を、専門家がジカ

ビジネス

ドル上昇、数カ月以内の利上げ適切とのFRB議長発言

MAGAZINE

特集:アメリカとヒロシマ

2016-5・24号(5/31発売)

オバマが現職の米大統領として初めて広島を訪れる──。被爆地に注目が集まる今だからこそ耳を傾けるべき声がある。

人気ランキング (ジャンル別)

  • 最新記事
  • コラム
  • ニュース速報
  1. 1

    「オバマ大統領27日広島訪問、原爆投下謝罪せず」ホワイトハウスが発表

    伊勢志摩サミットで来日時に現職の米大統領として…

  2. 2

    自撮りヌードでイランを挑発するキム・カーダシアン

  3. 3

    「国家崩壊」寸前、ベネズエラ国民を苦しめる社会主義の失敗

  4. 4

    サンダースが敗北を認めない民主党の異常事態

  5. 5

    歴史を反省せずに50年、習近平の文化大革命が始まった

  6. 6

    【動画】ドローンを使ったマグロの一本釣りが話題に

  7. 7

    行動経済学はマーケティングの「万能酸」になる

  8. 8

    北朝鮮がアフリカに犯罪者数百人を「輸出」疑惑

  9. 9

    全国の企業で遅れるエアコン点検義務への対応

    担当者も対象機種や具体的な実務を理解していない…

  10. 10

    荒れる米大統領選の意外な「本命」はオバマ

    共和党の醜い舌戦のおかげで人気回復のオバマがい…

  1. 1

    オバマ大統領の広島訪問が、直前まで発表できない理由

    ジョン・ケリー米国務長官は今月11日、G7外…

  2. 2

    安倍首相の真珠湾献花、ベストのタイミングはいつか?

    <オバマ米大統領の広島訪問に対応する形で、安倍…

  3. 3

    中国が文革の悪夢を葬り去れない理由

    今年で文化大革命が始まって50年だが、中国政府は…

  4. 4

    伊勢志摩サミット、日本文化の真髄として伊勢神宮の紹介を

    首相夫人の安倍昭恵氏が先月末に三重県を訪れ、…

  5. 5

    パナマ文書問題、日本の資産家は本当に税金逃れをしているのか?

    〔ここに注目〕日本の企業活動、税法の特徴…

  6. 6

    現実味を帯びてきた、大統領選「ヒラリー対トランプ」の最悪シナリオ

    共和党に2カ月遅れて、民主党もようやく今週1…

  7. 7

    出版不況でもたくましいインディーズ出版社の生き残り術

    日本と同様、出版不況に直面するアメリカの出版業界…

  8. 8

    AI時代到来「それでも仕事はなくならない」...んなわけねーだろ

    「AIやロボットが人間の仕事を奪うようになる」とい…

  9. 9

    ジャーナリズムと批評(2):絶滅危惧種としての理論家と運動

    映画化もされた小説『虚栄の篝火』や、ノンフィクシ…

  10. 10

    「ケリー広島献花」を受け止められなかったアメリカ

    今週11日、G7外相会議で広島を訪れたアメリ…

  1. 1

    米テキサス州、地震急増の原因はシェール採掘か=研究

    米テキサス大学オースティン校の地質学者クリフ…

  2. 2

    中国戦闘機2機が米機に異常接近、南シナ海上空で=米国防総省

    米国防総省は、南シナ海上空で17日、中国軍の…

  3. 3

    パリ発のエジプト航空機が消息絶つ、海に墜落か 66人搭乗

    エジプト航空の乗員・乗客66人を乗せたパリ発…

  4. 4

    行儀悪い売り方やめた、「白物家電の二の舞い」懸念=スズキ会長

    スズキの鈴木修会長は10日に開いた決算会見で…

  5. 5

    訂正:三菱自の燃費不正は経営陣の圧力 国交省、スズキには再報告要請

    会見内容などを追加しました[東京 18日 ロイ…

  6. 6

    米テスラ、株式発行などで2200億円調達へ 「モデル3」開発加速で

    米電気自動車(EV)メーカーのテスラ・モータ…

  7. 7

    訂正:三菱自、相川社長が6月引責辞任 益子会長は新体制発足まで続投

    三菱自動車は18日、相川哲郎社長と中尾龍吾副…

  8. 8

    ECB追加措置の検討は秋に、必要なら新規買入可能=リトアニア中銀総裁

    リトアニア中央銀行のバシリアウスカス総裁は、…

  9. 9

    インタビュー:トランプ氏、核阻止へ金正恩氏との会談に前向き

    米大統領選で共和党候補指名を確実にしたドナル…

  10. 10

    焦点:南シナ海仲裁裁判に台湾が横やり、裁定遅延の恐れも

    台湾の当局に近い団体が、南シナ海の領有権をめ…

Newsweek特別試写会2016初夏「疑惑のチャンピオン」
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

0歳からの教育 育児編

絶賛発売中!

コラム

辣椒(ラージャオ、王立銘)

中国が文革の悪夢を葬り去れない理由

パックン(パトリック・ハーラン)

破壊王! トランプの「政治テロ」が促すア