コラム

ペロシ下院議長宅襲撃事件から見える、アメリカの闇と分断

2022年11月02日(水)14時50分

ペロシ下院議長は事件当時、ワシントンにいたため無事だった KGO TV via ABC/REUTERS 

<トランプ「信者」の異常な犯罪を目にしても、保守派の勢いは止まらない>

10月28日(金)の未明、カリフォルニア州のサンフランシスコ市内にある、米連邦議会下院のナンシー・ペロシ議長(民主)の自宅が襲撃されました。襲撃犯は、デビット・デパーペという42歳の男で、住居に侵入すると「ナンシーはどこだ、ナンシーはどこだ」と叫んで、下院議長を探し回ったそうです。

この時、実は下院議長本人は、議会のある首都ワシントンにおり不在でした。そこで、夫のポール・ペロシ氏が応対しましたが、危険を察知したポール氏は洗面所に行くと言って、その中から911(日本の110番)コールをしたのでした。

デパーペは、このポール氏の行動を怪しんで逆上、駆けつけた警察官の目前でポール氏をハンマーで殴って負傷させた後に逮捕されています。取り調べに対して、デパーペは、

「自分は下院議長にインタビューして、彼女が『真実』を告げるのか、あるいは民主党が繰り返し述べている『嘘』をつき続けるのかを試すつもりだった。おそらく議長は『嘘』をつき続けるだろう。その場合は、彼女の膝を砕くつもりだった。そうすれば、彼女は車椅子で登院せざるを得なくなる。当然の報いというわけだ」

などという異常なコメントを述べています。なお、ポール氏は頭蓋骨骨折など、重傷を負い集中治療室での治療の結果、現在の容態は安定していると報じられています。

トランプ派には不利に働くはずだが

このデパーペという男はカナダの出身で、報道によればハワイを拠点とした「ヌーディスト団体」の女性リーダーに心酔して、その団体の活動家をしていたそうです。彼女と決別した後は、SNSを中心として陰謀論や極右思想の拡散をしていたそうで、2020年には大統領選結果への批判を、その後は新型コロナウイルスのワクチンに関する陰謀論などを熱心に投稿していたようです。

その主張の中には、ヒトラー礼賛、LGBTQへの攻撃、あるいはカトリックやユダヤ教徒への攻撃など、かなり過激なものも含まれていたようですが、それも含めて「典型的なトランプ派の陰謀論者」という理解で報道がされています。

この事件、投票日直前ということで、中間選挙への影響が気になります。常識で考えれば、このような悪質な暴力事件を目の当たりにすれば、多くの有権者は、トランプ派に対する悪いイメージを抱くはずです。少なくとも、全体としては、僅かでもトランプ派を忌避する感情が起きそうなものです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:ウクライナ和平協議、忘れられたロシア政治

ビジネス

ステランティス、28年までに仏生産台数を11%削減

ワールド

香港、火災調査で独立委設置へ 修繕工事監督も対象

ビジネス

米政権、チップレーザー新興企業xLightに最大1
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 2
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カニの漁獲量」が多い県は?
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 8
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 9
    600人超死亡、400万人超が被災...東南アジアの豪雨の…
  • 10
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story