コラム

もし山下達郎氏が、アメリカでサブスクを解禁すれば......

2022年06月15日(水)14時15分

確かにサブスクが音楽へのリスペクトに溢れているとは思えないが stockam/iStock.

<米音楽業界は、サブスクを楽曲紹介のツールとして割り切り、ライブやツアーでマネタイズするビジネスモデルになっている>

6月22日に久々のオリジナルアルバム『Softly』をリリースするミュージシャンの山下達郎氏は、サブスクは「おそらく一生やらない」と語っているそうです。サブスクとは、ストリーミングによる音楽を無制限に聴取できる会員制のサービスで、具体的にはApple Music、Amazon Music、Spotifyなどを指します。

今回の『Softly』も基本的には物理的なCDのディスクとビニールと言われるLPレコードでの発売になります。この「サブスク拒否」について、山下氏は、アルバムリリースに先駆けて、Yahoo Japanのインタビューに応じて、次のように語っています。

「だって、表現に携わっていない人間が自由に曲をばらまいて、そのもうけを取ってるんだもの。それはマーケットとしての勝利で、音楽的な勝利と関係ない。本来、音楽はそういうことを考えないで作らなきゃいけないのに」

サブスクに対する明確な拒否宣言ですが、ミュージシャンとして、アーティストとして筋を通しているのは事実だと思います。そのような姿勢を堅持し、またメッセージとしてぶれずに発信し続けている姿勢は、アーティストとして一流の証明でもあると思います。

その一方で、仮にニューアルバム『Softly』のリリースと同時にサブスクを解禁してしまえば、アルバムCDの販売にはマイナスとなり、一気に日本市場におけるCDというメディアの衰退を加速するという思いもあるに違いありません。

「シティポップ」ブームの主体はミレニアル世代

それでは、このまま山下氏が「一生サブスクをやらない」ということですと、アメリカから見ていると「それは残念」という感触を持たざるを得ません。

現在のアメリカでは、日本の80年代のフォーク、ロック系の音楽が、「シティポップ」というカテゴリで一括りにされながら、空前のブームになっています。具体的には、山下氏の妻の竹内まりや氏の『プラスティック・ラブ』が、非公式のYouTube動画が5000万回再生、公式ビデオが900万回再生という突出したヒットになっているのが好例です。

他にも、松原みき氏の『真夜中のドア』であるとか、山下氏とはバンドのシュガーベイブ時代の仲間である大貫妙子氏や、YMOメンバーの細野晴臣氏の一連の楽曲など、とにかく意外な形で、日本の古い楽曲がヒットしています。そんな中で、山下達郎氏の存在は、最初は竹内氏の夫で共同制作者という理解、そして、現在は「シティポップの大御所」という認識になっています。

この「シティポップ」ブームですが、主体となっているのは日本のように「往年のファン」ではありません。ミレニアル世代かあるいはもっと下の、21世紀になって生まれた10代の若者などが強く支持しているのが特徴です。また、それこそ日本の70年代から80年代の「洋楽ブーム」と全く同じで、日本語の歌詞への理解は薄く、純音楽的と言っていい楽しみ方になっていると言えます。

ブームの要因については諸説があります。一般的には、「80年代へのノスタルジー」だとか「音楽的に高度な作り込みへの評価」あるいは「AIのアルゴリズムが生み出した偶発的ヒット」という説明がされています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

シリア反政府勢力、中部要衝ハマ進攻と表明 政権軍は

ワールド

韓国大統領・前国防相らを捜査 戒厳令巡り反逆の疑い

ビジネス

英企業の賃金上昇率予想、4.0%に鈍化=中銀調査

ビジネス

フランス内閣崩壊、財政赤字削減の道筋不透明に=S&
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    肌を若く保つコツはありますか?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 4
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    【クイズ】核戦争が起きたときに世界で1番「飢えない…
  • 7
    ついに刑事告発された、斎藤知事のPR会社は「クロ」…
  • 8
    韓国ユン大統領、突然の戒厳令発表 国会が解除要求…
  • 9
    混乱続く兵庫県知事選、結局SNSが「真実」を映したの…
  • 10
    国防に尽くした先に...「54歳で定年、退職後も正規社…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 4
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 5
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 6
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 7
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    エスカレートする核トーク、米主要都市に落ちた場合…
  • 10
    バルト海の海底ケーブルは海底に下ろした錨を引きず…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story