コラム

「金髪・付け鼻」はどうして差別になるのか?

2014年01月30日(木)13時48分

 ですから、「そもそも白人が優位である」という「暗黙の前提」にもとづいて、白人の身体的特徴を戯画化しても「下から上という視線」があるかぎり「問題ないだろう」という発想は、全くもって「ガラパゴス」であるわけです。

 もっと言えば、今回のクレームは日本在住の外国人たちから出てきたわけですが、彼等は「旬の二枚目俳優」である西島さんの「カッコよさ」を自然に理解しているのだと思います。彼との、つまり「カッコいい日本人男性」との対比という形で、「金髪、付け鼻」のバカリズムさんが登場した時点で、「自分たちがバカにされた」という瞬間的な不快感になったのは極めて自然です。

 そもそも「高い鼻」とか「金髪」という記号が「プラス」という発想もありません。高すぎる鼻をコンプレックスに思っている人はたくさんいますし、金髪に至っては「頭が悪い」という偏見で見られることすらあります。例えば女優のリース・ウィザースプーンが一躍人気女優になったコメディ映画『キューティ・ブロンド』という映画があります。「ブロンド娘がハーバードの法科大学院でサクセスする」ドタバタ喜劇ですが、この映画の主要なコンセプトは「見かけはバカに見えるブロンドで、行動パターンも庶民的だが、最終的には法律の最高学府でサクセスする」という「下克上的なカタルシス」がネタなわけです。

 この映画にしても、見ればそのコンセプトに誤解はないと思います。ですが、邦題が『キューティ・ブロンド』になっていること自体が「ブロンドというのはプラスの記号」という「勘違い」を示唆しているように思うのです。ちなみに、原題は "Legally Blonde" という何とも絶妙なタイトルになっています。そこには「金髪娘はそもそも法律的ではない、あるいはハーバードの法科大学院に行くのは正当ではない」という「マイナスの前提」があって、その上で「だけれども」この主人公の場合はサクセスするということで、「法律的」であり「正当」だという「どんでん返し」が成り立つわけです。

 そうした文脈に加えて、そもそもは「他人の身体的特徴を不要な形で誇張して表現する」こと自体が「不快」だという感覚は、現在の国際社会では非常に重要なスタンダードになっている、この点が一番重要だと思います。

 今回の問題は、白人金髪が「優位なのか」どうかということよりも、そもそも人間の身体的特徴を不要な形で表現することへの反省という点で捉えるべきだと思います。少なくとも、ANAは国際企業として、これからはアジア圏と北米や欧州の「乗り継ぎ客」マーケットを重視してゆくことになると思います。つまり多様な人種・国籍の乗客からの評価を高めることが経営戦略上重要になるわけで、こうした「勘違い」はこれで最後にしてもらいたいと思うのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:中国企業、希少木材や高級茶をトークン化 

ワールド

和平望まないなら特別作戦の目標追求、プーチン氏がウ

ワールド

カナダ首相、対ウクライナ25億ドル追加支援発表 ゼ

ワールド

金総書記、プーチン氏に新年メッセージ 朝ロ同盟を称
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story