コラム

「金髪・付け鼻」はどうして差別になるのか?

2014年01月30日(木)13時48分

 ANA(全日本空輸)は今月中旬から放映が始まった同社のテレビCFに対し、人種差別的だとの苦情が寄せられていることを理由に放映を打ち切ったようです。問題とされたのは、3月から羽田空港発着のANA国際線が増便されることをアピールするキャンペーンのCFで、ANAのパイロットに扮した俳優の西島秀俊さんとお笑いタレントのバカリズムさんが、今回の「大増便」に伴って同社のイメージアップをしようと英語で会話している内容です。

 就航地を紹介して「増便の喜び」で盛り上がったところで、バカリズムさんが「じゃあ、ハグしよう」というと、西島さんは「何とも日本的なリアクションだね」とこれを否定。そこで "Let's change the image of Japanese people!" と西島さんが言うと、バカリズムさんが "Sure." と応じるのだが、このときバカリズムさんの見た目は、金髪のカツラと高さを強調した「付け鼻」によって「金髪の白人」の姿に変わっているのです。

 さて、この問題ですが、関係者、つまり広告主や広告代理店などの間では「これがどうして問題になるのか?」という点で、どうも納得していないように見えます。放映が始まってクレームが出てから、打ち切りまで時間がかかったこともありますし、そもそも、ここまでケチがついたキャンペーンであるのに、ポスターやネットの広告では「問題箇所」を除いては継続がされているわけです。

 どうして関係者がそのように中途半端な姿勢になっているのかというと、ネット上での議論などでは日本国内の声としては「これが差別と言われるのはおかしい」というような、「非難に対する批判」が大きいことがあるようです。コマーシャルの主要なターゲットは国内の日本人で、そのターゲット層が反感を持っていないのなら、キャンペーンとしては継続してもいいだろう、そんな判断があると思われます。

 ですが、ANAが本当に国際企業として伸びてゆくためには、もう少し正確な理解をしたほうが良いと思うのです。少なくとも、今回の就航地拡大の対象になっている北米や、おそらくは欧州でもこの種のCFは「完全にアウト」です。

 どうしてなのか? 少し説明したいと思います。

 まず、例えば現在のアメリカでは「金髪の白人」が「優位」であるという考え方は、タテマエでもホンネの部分でも消えてしまっています。アメリカ大統領はバラク・オバマであり、最も美しい女性として男女から人気と尊敬を集めている歌手はビヨンセ・ノウルズであり、気質の激しいニューヨーカーたちが現時点で最も期待している野球選手は田中将大だったりするわけです。

 オバマにしても、最初の選挙の際には「反白人主義の過激な牧師と仲がいいのでは?」などと中傷されるなどの「人種問題」がありましたが、二度目の選挙ではそんな意識は消えています。ビヨンセに関しても、ディスティニーズ・チャイルド時代とは違い、現在の「ビヨンセ」ブランドに人種を意識する人はいなくなりました。田中投手に至っては、日本人ばかり優遇されるというような人種がらみの批判は絶無です。

 つまり少なくともアメリカでは「白人優位」というカルチャーは消滅しているのです。残っているとしたら「本当はアメリカを作ったのは白人で、白人優位のはずなのに、どうしてこうなったのだ?」という「一部の白人の負け犬意識」があるぐらいで、そうした種類の人物は今でも機会に乗じて「白人優位」的な行動をするかもしれません。ですが、その背景にあるのは自信やプライドではなく、敗者としての屈折であったりするわけです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)、『アメリカモデルの終焉』(東洋経済新報社)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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