コラム

繰り返される乱射事件、それでも銃社会への反省ができないアメリカ

2012年02月29日(水)12時18分

 27日(月)にオハイオ州のチャードン町の公立高校で発生した銃撃事件では、早朝のカフェテリアで5人の生徒が狙撃され、手当の甲斐もなく本稿の時点では3名が死亡するという惨事になっています。一部の報道では、違う高校に通っている生徒が侵入して犯行に及んだということになっていますが、狙撃犯とされている少年はこの地域で育っており本来ならこのチャードン高校の生徒であったはずの少年のようです。

 その少年が実際に通っていた高校は、この郡の「オルタナティブ・スクール」で、学習障害のある子供など「高校中退に追い込まれる危険」のある子供を各校から集めて教育する学校でした。詳細は不明ですが、成績不振、もしくは行動に問題があって、ある時点でこの学校に送り込まれたものの、交友関係としては、このチャードン高校が彼の本来の居場所であったと思われます。

 被害者は一つのグループで、加害者の少年はこのメンバーを狙って狙撃に及んだという周囲の証言があったようです。その背後関係としては「ブリング(いじめ)」があったという証言も報じられています。加害者の少年が変わった服装をしていたとか、攻撃的な詩句(「全世界をオレ様の前にひざまずかせて見せる」という種類のもの)をフェイスブックに掲載して友人が呆れたということで、仲間からバカにされていたという情報もあります。

 更にたどってゆくと、少年は祖父母に養育されていたのですが、離婚して出ていった(出て行かされた?)父親は激しいDVの常習犯であり、母親以外の女性への暴力等もあって刑務所を出たり入ったりという状態が続いていたということです。母親の方も、父親のDVに対する過剰防衛が傷害罪となって収監されていた時期があるという報道もあります。そんな過酷な家庭環境下ではあったものの、祖父母に養育されて基本的には非常に礼儀正しい少年であったという声も聞かれます。

 いずれにしても、非常な困難を抱えた家庭に育ち、個人的にも困難を抱えていた少年であったようです。安易な形でストーリーにするのには抵抗があるのですが、そうした環境の結果、悩みを抱え物静かであった少年が、漠然と「いじめのターゲット」になったか、あるいは「ターゲットになっている」と思い込んで行ったというのも、仮に事実であればある種の理解は可能な話です。

 一方で事件の翌日に公判が始まると共に、別のストーリーも出てきています。例えば、今回の狙撃は特定の相手を狙ったものではない、つまり無差別のものだったという説、あるいは、被害者の一人が、狙撃した少年の元のガールフレンドと最近交際を始めており、男女関係の愛憎が絡んでいるという説なども出ています。

 ですが、いじめへの逆襲なのか、嫉妬なのか、無差別なのかということは重要ではないと思います。問題は、どうしてそこに銃が絡まなくてはならなかったのかという一点にあるのです。

 今回の犯行に使われた22口径のハンドガン(拳銃)は、少年のおじの持ち物であり、少年は勝手にそれを持ちだしたもののようです。仮にそうだとして、それは家庭内で銃の管理が甘かったという個別の問題ではなく、銃が大量に社会に存在しているということが問題なのです。

 ですが、今回の事件を受けて銃規制の問題が議論される気配は全くありません。ここ数年、リーマン・ショック以来の不況と雇用状況を受けて、解雇された人間が逆恨みをして、元の職場で乱射事件を起こして自分も死ぬという事件が多発しています。ですが、アメリカのジャーナリズムも政界も銃規制へと動く気配はありません。

 昨年1月のアリゾナ州で発生したガブリエル・ギフォーズ下院議員暗殺未遂事件では、6名が死亡し、ギフォーズ議員は奇跡的に一命を取り留めたものの、今でも厳しいリハビリの途上にあるなど、この事件ほど銃の恐ろしさ銃規制の必要を示している事件はないと思われるのです。ですが、共和党は勿論、民主党にもそうした動きはありません。

 少し以前の事件ですが、33名が犠牲になったバージニア工科大学での乱射事件(2007年)の時もそうでした。精神病歴のある人間への銃器の販売管理に関する議論は出ましたが、全面的な銃規制の議論は起きませんでした。

 一つの解説は、現在は黒人大統領のオバマがホワイトハウスにいるので、民主党の側から銃規制問題に火をつけると、大統領暗殺を警戒しなくてはならないなど、左右対立が国家を二分しかねない、そんな「不気味な空気」を回避するために、当面は銃規制の議論は封印しているという考え方です。

 ただ、私の直感としてはそうした「人種をめぐる殺気」のために銃規制論議を遠慮しているというのは、あまりリアリティはありません。今回の共和党の予備選で、一時期にティーパーティーの支持なども得て黒人のハーマン・ケイン候補の人気が出たことでも分かるように、アメリカは人種を巡って暗殺がどうのというような時代ではなくなっているからです。

 むしろ、ここ10年ぐらい銃規制議論が進まない背景には、「9・11後の殺気」という問題があるのではないかと思います。9・11の同時多発テロを受けて「草の根保守」が発言力を増す中で、一種の報復感情がアメリカをアフガンとイラクの戦争へと引きずり込んで行ったわけです。例えば、被害を受けたニューヨークとは全く無関係の中西部で、続々とタリバン征討のために志願兵が殺到したわけですが、そうした草の根保守の心情を見るにつけ、「やられたらやり返せ」的なカウボーイ文化が現代でも脈々と生きていることが実感されたのだと思います。

 都市のリベラルは、政策としては銃規制を強く支持していても、そうした「カウボーイ的な殺気」を見るにつけ、9・11以降の時代の中では「全国レベルの銃規制論議」はほぼ不可能だと諦めてしまっている、私はそんな風に見ています。何ともやり切れない話ですが、これが2012年のアメリカの現実だと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)、『アメリカモデルの終焉』(東洋経済新報社)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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