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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ビンラディン殺害「2つの疑問」とは?
2011年5月1日深夜、オバマ大統領は長年アメリカが追い続けていたオサマ・ビンラディンを殺害したと発表しました。詳細は既に全世界で報じられていますが、とりあえず2点の「疑問」について簡単に整理しておこうと思います。
1つは「どうして殺害したのか?」という点です。オバマの発表では海軍特殊部隊を中心としたグループが、パキスタンのイスラマバード近郊にあるビンラディンが潜伏している邸宅に対して「作戦」を実施したところ、銃撃戦となり結果的に殺害したというのですが、恐らくは最初から捕縛は考えていなかったと思われます。では、どうして殺害したのでしょうか?
(1)裁判が厄介です。アルカイダ系の人間で911に直接関与した人間を、ニューヨークで一般の刑事法廷で裁こうとしたこともあるのですが、被告人移送時に仲間が「奪還作戦を行う危険」などを理由として保守派が騒いだために、結局軍事法廷に戻したという過去の例があります。セキュリティの点だけでなく、「悪人に合衆国憲法による弁護人選任の権利を与えるのはイヤだ」などという保守派の「信念」は、国論分裂を招く一方で、とても国際社会に見せられたものではありません。ビンラディンのような大物を「裁く」ような成熟した刑事司法文化をアメリカは持っていない以上、殺すしかなかったのです。
(2)奪還作戦など今後が厄介になります。アッサリ殺してしまったほうが、アルカイダ的なグループの活動を抑える上ではるかに難易度が低い、そうした判断は当然あったでしょう。
(3)アメリカの保守派には、今でも「オバマはイスラム教徒」だとか「オバマは反戦運動家でホンネはアメリカを守る気はない」などというイメージが残っています。オバマの名前で、毅然とした「殺害」を実施することで政治的にそうした批判を根絶することが可能というわけです。
ではどうしてこの「5月1日」だったのでしょうか?
(1)アフガン増派軍の撤退を7月からスタートするという日程から逆算すると、この時期にビンラディンを殺害しておけば、万事がスムースに行くという計算があると思います。
(2)これに従って、アフガン派遣軍のペトレイアス司令官をCIA長官に、CIAのパネッタ長官を国防長官にという「横滑り人事」を丁度発表したばかりです。そしてゲイツ国防長官の勇退も発表されています。その翌日にビンラディン殺害の成功を報じて、この3人の「戦功」を輝かせるというのは、オバマ流の人心掌握術として恐怖すら感じさせられます。
(3)エジプトとリビアのデモが「高揚しつつ不安定な状況」は避けたかったのだと思います。ビンラディン殺害が、民主化デモを反米デモに変える危険は絶対に排除する必要があったからです。英国のロイヤル・ウェディングが済むのも待たねばならなかったでしょう。「この日」の選択は非常に微妙な中で決まったのだと思います。
(4)オバマの支持者のコアには「大学生」という存在があります。アメリカの大学は5月中旬には夏休みに入ってしまいます。そうなると、大学生はバラバラの存在になってしまいます。その前に「オバマ万歳」をさせておいて帰郷させるというのは夏の政局に大きな影響があるからです。
(5)ここで「殺害成功」として世論を盛り上げておいても、オバマの支持率はやがて下がるでしょう。それでも、もう一度9月には「9・11の十周年」でオバマを主役にする事が可能です。そこまで計算すると、やはりこの5月初旬という時期が効果的という計算があると思います。
(6)6月には仏ニースでのサミットがあります。サミットに近すぎると、フランスでは厳しい警戒が必要になるわけで、逆に遠すぎるとこの「成果」が忘れられた中でのサミットになります。1カ月前というのは丁度良いタイミングだとも言えます。
いずれにしても、今回の事件は「オバマという政治的怪物」の真骨頂だと言えるでしょう。良い意味でも悪い意味でも、オバマは2期目を射程に入れてきたと思われます。
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