コラム

「トランプ大統領はウソつき。」

2017年02月09日(木)17時00分

トランプの虚言は当選しても就任しても終わらない Carlos Barria-REUTERS

<アメリカ大統領に敬意を払えば、トランプを「ウソつき」と言い切るのはためらわれるかもしれない。世界中の人々が、彼の発言をどう呼ぶべきか困っていると思うが......>

「トランプ大統領はウソつき。」

こう書くかどうか、みんな迷っている。前からトランプには真実と反する発言が多いが、ウソと言いきっていいのか。世界中の報道機関、ジャーナリスト、コメンテーターやハーバード卒漫才師兼自称コラムニストが、心に葛藤を抱えているはず。そこで、ちょうどいい解決策を僕が見つけた! もう少し文字数を稼いでから発表しよう。

そもそも「ウソ」という言葉を使うことを、なぜためらうのか。昔から大統領本人を尊敬していなかったとしても、その地位に対する敬意を示すため「ウソつき」と呼ぶのはご法度だった。

ワシントン、リンカーン、ルースベルトなどの歴代大統領が築いた栄光もある。大統領の指令の下で戦ってきた戦没者や退役軍人へのリスペクトもある。アメリカの象徴でもある大統領のイメージや信頼性を保つためにも、メディアの中立性を維持するためにも必要である。そして単純に、マナーでもある。メディアがそのマナーを守る代わりに、歴代大統領はウソをほどほどにするマナーを守るようにしてきた。

しかし「ウソ」という表現に対する拒絶反応を克服しなければならない時がきた。ウソをウソだと言わないことの危険性を、身をもってわかったから。ウソをウソと言ってこなかったことで、ウソつきが大統領になったのだ。

ニューズウィーク日本版の本誌でも紹介したが、トランプは民間人だった時代から無数のウソをばらまいてきている。その中でも一番有名な例は「オバマ大統領はハワイ出身と偽っているが、ケニア出身だ。大統領になる資格はない」と、長年繰り返してきたbirtherism(誕生主義)の主張。

もちろん出生届など、オバマがハワイ生まれである証拠はたくさんあるが、それらを全部無視して、現職大統領の権威を奪うべく、このばかばかしい陰謀説をずっと広めてきた。

ちなみに僕は海外旅行中、カナダ人と偽ることにしているけど、それはまた別の話。

【参考記事】トランプに電話を切られた豪首相の求心力弱まる

トランプの虚言は、当選しても就任しても終わらない。就任式でのがらがら具合は、写真を見ても明らかに確認できるのに、「会場はワシントン記念塔まで観客に埋め尽くされた」とウソをついた。また、式典中ずっと小雨が降っていたのに、「僕が話しだしたらきれいに晴れた」とウソをついた。そのあと、大統領選の得票率でヒラリーが勝った事実を掘り起こし、「300万人の不正投票があった」とウソをついた。

前から「トランプのウソTop500」などのウェブサイトが多くあったが、就任後はさらに大統領のウソを随時リストアップするウェブページがいくつか新設されている。「雇用を創出する」という公約はどうやら真実のようだ。少なくともトランプのウソを指摘する産業で、雇用が増えているもよう。

しかし、ウソの例があふれているなかでも、やはりみんな表現に迷ってしまう。

トランプ大統領はウソつき。

この一行があるだけで、それを発した人やメディアが疑われる。このコラムもそうだろう。「パックンはアンチトランプのリベラルだ! ヒラリー応援団長だ! 個人レベルではトランプブームに乗っているくせに批判する偽善者だ!」と、僕を責める人は大勢いるはず。

その指摘は間違いない。全部あっている。しかし、それでもトランプはウソつきだ。はっきり書かないと、メディアも真実を崩壊させる共犯者になる。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがシリア攻撃、少数派保護理由に 首都近郊

ワールド

学生が米テキサス大学と州知事を提訴、ガザ抗議デモ巡

ワールド

豪住宅価格、4月は過去最高 関税リスクで販売は減少

ビジネス

米関税で見通し引き下げ、基調物価の2%到達も後ずれ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story