コラム

原点にして革新的なフレンチカー:シトロエン C4カクタス

2016年03月08日(火)19時00分

 そんなシトロエンだが、'90年代後半には、かつてのアップルのように革新性を失い、凡庸なクルマばかりを作っていた時期もある。そんな低迷の時代を経て、2000年代に再び個性を取り戻し、思想的に進んだクルマ作りに取り組み始めた同社の1つの到達点が、2014年にデビューしたC4カクタスだった。

 カテゴリー的にはSUVやクロスオーバーと呼ばれる区分に属するが、他の同種の製品が、恣意的とも感じられる複雑なラインや凹凸を持つフォルムで身を固めているのに対し、C4カクタスはシンプルでクリーンな面構成を基本とし、バンパーやドア側面に「エアバンプ」と呼ばれるエアクッションのパネルを配している。これがボディの傷つきを防止し、万が一のパーツ交換の際にも最小限の出費で済む仕組みだ。

5.Cuctas 2.jpg

 内装も、メーターやコントロールパネルを2つの液晶ディスプレイに集約するという大胆な簡略化を図りながら、トラベルをテーマにバッグの持ち手をイメージさせるドアハンドルや、クラシカルなスーツケースをモチーフとしたグラブボックスなど、エスプリに溢れたデザインが施された。

7.Cuctas 4.jpg

 それでいて、使用頻度の低いリアシートの分割可倒方式をやめるなど、軽量化を進めた結果、スタンダードモデルの車重は1トンを切り、トータルな維持費を従来比の8割程度に低く抑えることに成功した。

 カクタスの名は、この、必要最低限のリソースで機能するという製品開発の方向性を、少量の水だけで荒地に育つサボテンになぞらえたネーミングであり、車両価格も現地では200万円前後からと車格を考えれば安価に設定されている。そのあたりも、古くからのシトロエンファンにとっては、2CVのスピリットを現代に甦らせた存在と感じられるのである。

 ちなみに、C4カクタスの日本導入は、2017年(の、たぶん初頭)に予定されており、今から発売が楽しみな1台だ。唯一残念なのは、導入されるのが上級モデルなので車重が1トンを超え、価格も高めになりそうなことだろうか。

プロフィール

大谷和利

テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー、NPO法人MOSA副会長。アップル、テクノロジー、デザイン、自転車などを中心に執筆活動を行い、商品開発のコンサルティングも手がける。近著に「成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか」(現代ビジネスブック)「ICTことば辞典:250の重要キーワード」(共著・三省堂)、「東京モノ作りスペース巡り」(共著・カラーズ)。監修書に「ビジュアルシフト」(宣伝会議)。

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