コラム

【市場】いよいよ終わりの始まりが始まった

2016年02月12日(金)17時46分

 リーマンショック前の世界金融バブルの反省から、英米当局は銀行規制を強化し、リスクを取りにくくした。彼らはトレーディングも投機的な投資も出来なくなり、収益は縮小していった。さらに、リスクに対処するため、資本基盤の強化を求められ、無理をして資本調達を行い、これが資本性の高い債券というもので行われ、ドイツ銀行が返済危機に陥っていると噂されてダメージを受けているように、この債券は、金融市場の現在の不安で持続不可能な資本調達方法となり、今後、銀行はさらに追い込まれる可能性がある。

失われた逃避先

 しかし、銀行を根底から危機に追い込んだのはマイナス金利および量的緩和による中央銀行の国債買い上げである。マイナス金利により、中央銀行に現金を預けることによる安定収益は失われたが、それよりも遙かに深刻なのは、国債で資金運用をして安定収益を得ていた銀行から、この収益基盤を奪った量的緩和による異常な世界的国債利回りの低下である。世界的な低金利、いまやマイナス金利は、銀行のコアの収益を失わせ、銀行はリスクを取った貸出を抑制せざるを得ない。まさに、量的緩和やマイナス金利は、株式投機家を短期的に喜ばせただけで、長期の真の資金提供者、銀行や機関投資家を苦しめてきたのであり、そのとどめがマイナス金利であり、そのイメージの象徴が日銀によるサプライズのマイナス金利導入であった。この結果、日銀のマイナス金利を合図に、世界リスク資産市場は銀行株を中心に大暴落を開始したのである。

 そして、これが世界金融市場、金融システムの崩壊の始まりとなったのは、世界の中央銀行の異常な量的緩和であった。そして、それをもっともドラマティックに演出したのが日銀であった。日銀の異次元緩和以来、日本国債市場は完全に壊れてしまった。乱高下が続き、そこは大きな価格変動と期待の乱高下を利用した短期投機家の狩猟場となったからである。日銀がサプライズで異常に買い上げたために、国債市場は投機場となった。

 現在の円高、長期国債までもがマイナス金利に陥っているのは、質への逃避ではなく、ただの値上がり期待、キャピタルゲイン狙いの短期筋の投機の殺到に過ぎない。さらにマイナス金利が拡大する、さらに日銀がどんな高い値段でも買い上げてくれる、その期待で投機家の買いが集まっているだけなのである。これにより、10年物国債までもが、マイナス金利へとオーバーシュートし、その後、乱高下している。これが金融市場の崩壊である。なぜなら、国債市場とは安全資産の市場であり、本来は資金の逃避場、安心して資金を貯めておける場所なのだ。この安住の地がなければ、すべての資金はリスク資産市場を浮遊するしかない。米国国債市場まで、その気配が出てきた。こうなると、世界の金融市場は安定するはずがない。国債市場というアンカー、錨を失ってしまったからである。

 いよいよ金融市場の浮遊いや遭難が始まったのであり、崩壊の始まりの危険性が出てきたのである。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

豪が16歳未満のSNS禁止措置施行、世界初 ユーチ

ワールド

ノーベル平和賞受賞マチャド氏の会見が中止、ベネズエ

ワールド

カンボジア高官「タイとの二国間協議の用意」、国境紛

ワールド

メキシコ、9日に米当局と会談へ 水問題巡り=大統領
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story