コラム

【市場】いよいよ終わりの始まりが始まった

2016年02月12日(金)17時46分

1月29日、予想外のマイナス金利導入を発表した日銀の黒田東彦総裁 Yuya Shino-REUTERS

 いよいよ終わりの始まりが始まった。それは日銀のマイナス金利で始まったのである。

 現在の金融市場混乱の原因は何か。それは銀行システム不安である。昨年8月から9月の暴落、今年年初からの暴落の要因は、原油暴落だった。今度は、原油から銀行に移ったのである。

 原油の暴落は深刻だが、何とかなる。一時的な不安は広がるが、経済全体を永続的に壊すことにはならない。なぜなら、原油価格下落は、ゼロサムで、産油国、資源輸出国にはマイナスだが、輸入国にはプラスであり、米国、日本の二大経済圏を始め多くの経済が恩恵を受ける。ただ、相対的に強い米国、日本が得をして、資源国という基盤の脆弱な国々が打撃を受ければ、世界全体ではマイナスになる。なぜなら、弱いモノは打撃で壊れてしまい、壊れることによるコストは大きいからだ。しかも、淘汰されるべきものでなく、社会はそこにあるので、世界はより不安定になるから社会的にも大きなマイナスだ。

危機が銀行に飛び火した

 さらに、資源国や資源開発プロジェクトを行っている国や企業が打撃を受けることは経済に大きな影響を与え、原油安によるプラスの恩恵を大きく上回るマイナスとなるのは、彼らが借り入れでプロジェクトを行っているからだ。いわば実力以上の投資を行っており、その無理を支えているのが投資家で、輸入国のプラス1と輸出国のマイナス1に加え、輸出国のマイナス1は借り入れというレバレッジでマイナス2にも3にも被害は膨らむからだ。

 レバレッジとは借金、それを担っているのは金融市場と銀行であり、金融市場と銀行がダメージを受ければ、これは資源、原油と関係のないセクターに広がる。つまり、経済全体に危機が広がるのだ。銀行融資が焦げ付けば、その分資本を補うために、他へのリスクのある融資を減らすことになる。この結果、健全でまっとうなビジネスを行っている企業、とりわけ中小企業が影響を受け、経済は縮小均衡に陥り、不況になる。新興企業も同様で、こちらは銀行と言うより、金融市場の収縮により上場が難しくなり、ファンドの出資も得られにくくなる。まさにリスクをとった投資が行われなくなり、縮小均衡へ経済は陥る。

 つまり、今回の危機が終わりの始まりであり、世界経済の真の危機となり得るのは、銀行が危機の中心にあるからだ。

 原油の暴落により、銀行や金融市場は少し傷んだ。しかし、それは部分的であり、間接的だった。しかし、今度は銀行自身が直接危機に陥っているのだ。その理由は、マイナス金利とリーマンショックの深い後遺症にある。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国スマホ販売、第1四半期はアップル19%減 20

ビジネス

英インフレ率目標の維持、労働市場の緩みが鍵=ハスケ

ワールド

ガザ病院敷地内から数百人の遺体、国連当局者「恐怖を

ワールド

ウクライナ、海外在住男性への領事サービス停止 徴兵
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 9

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 10

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story