コラム

悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か

2025年11月16日(日)15時50分

中国とはモメ続ける運命

高市首相は、我が国の防衛上の安全を確保したい思いがあったのかもしれない。が、それは中国もまったく同じことを思っている。日本にとって「これならもう安心だ」という安寧至極の状態は、中国にとって見れば、猛烈に不安で危険な状態を意味する。逆もまたしかり。互いに相手の軍事力増強を見て「恐い! 我々ももっと強気に出なくては!」と神経をすり減らしているのが、今の日本と中国である。

では、日本は今般の問題にどう対処したら良いのか。恐らく、なあなあにするのが一番良いのだろう。強気に出れば、相手はもっと強気に出る。弱気に出れば、なめられる。台湾問題については「我が国は平和的解決を望んでいる」という従来通りの政府見解を延々と繰り返し、時が流れるのを待つしかないだろう。タテマエを言い続けていれば、そのうち国内外でさまざまなニュースが流れ、この問題は忘却されていく。それで良いのだ。

ただ、こうして日本と中国が対立することで誰が一番得をするかと言えば、アメリカだ。日本と中国が戦争にならない程度に緊張し勢力均衡が保たれている状態は、アメリカが東アジアへの影響力を高める上で非常に役に立つ。薛剣氏の投稿について質問された際、トランプ大統領は「多くの同盟国だって友人ではない。貿易で中国以上に我々を利用してきた」と述べ、中国への批判を避けた。これは何よりの証左だろう。

定期的に適度にモメて国力を削り合っている今の日中関係は、アメリカにとっては理想的な状態だ。日中関係は「モメているのが平常運転」であり、この状態は今後も長く続くだろう。日本はアメリカの手のひらの上で転がされながら、中国とケンカをし続ける運命にあるのだ。世界でもっとも偉大な日米同盟、万歳である。

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プロフィール

西谷 格

(にしたに・ただす)
ライター。1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方紙「新潟日報」記者を経てフリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。現在は大分県別府市在住。主な著書に『ルポ 中国「潜入バイト」日記』 (小学館新書)、『ルポ デジタルチャイナ体験記』(PHPビジネス新書)、『香港少年燃ゆ』(小学館)、『一九八四+四〇 ウイグル潜行』(小学館)など。

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