コラム

悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か

2025年11月16日(日)15時50分
中国

高市首相の国会答弁が中国を怒らせているが Kazuki Oishi / Sipa USAーReuters

<日中関係が悪化の一途をたどっている。台湾問題について口を出した高市首相が悪いのか、それとも過激な反応をする中国が悪いのか――>

毎度おなじみのエスカレーション

日中関係が急激に悪化している。高市早苗首相は7日、国会で台湾有事に関する質問を受け「戦艦を使って、武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になりうるケースだと私は考える」と答弁した。

これに対し、中国の薛剣在大阪総領事は「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない。覚悟ができているのか」とXに投稿した。中国政府は薛剣氏を擁護し、高市首相の答弁について「内政干渉だ」と強く抗議。双方が相手国の大使を呼び出し、注意した。さらに中国は14日、自国民に対し日本への渡航を避けるよう呼びかけた。

日本では薛剣氏に対し「ペルソナ・ノン・グラータを発動せよ」と鼻息を荒くしている人々も少なくない。

売り言葉に買い言葉といった具合に事態がエスカレートし、国民感情はますます悪化していくという、日中関係において毎度おなじみの光景である。ただ、この問題が興味深いのは、論理的にはあらゆる主張が成立するという点だ。

政府見解を踏み越えた高市首相が悪い、外交官らしからぬ暴言を放った中国が悪い、どっちも悪いところがある、答えようのない質問した岡田克也氏(立憲民主党)が悪いという具合に、いかなる立場からでも主張を組み立てることができてしまう。しかも、すべて「一理はある」。しかし、十全な答えはどこにもない。

私としては、高市首相の発言内容はそれほど異常なものとは思わない。が、従来の政府答弁の範疇を踏み越えてまで、台湾有事の具体例を公の場で述べる必要はなかったと思っている。つまり、高市首相は「余計なこと」を言ってしまったのだ。この世のトラブルはいつも「余計な一言」から始まってしまう。

国際社会というのは法規範が限定的で、結局は半グレ集団の縄張り争いと同じ論理で物事が動く。「シマ荒らしたらタダじゃ済まねえからな!」という一言は、たとえ内容的に間違っていないとしても、言わないほうが良いのである。言ってしまったら最後、相手は「んだとテメエ! ナメてんのかこの野郎!」と言い返すしかなくなってしまう。あとはメンチの切り合いと、不毛なチキンレースが続くのみだ。

プロフィール

西谷 格

(にしたに・ただす)
ライター。1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方紙「新潟日報」記者を経てフリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。現在は大分県別府市在住。主な著書に『ルポ 中国「潜入バイト」日記』 (小学館新書)、『ルポ デジタルチャイナ体験記』(PHPビジネス新書)、『香港少年燃ゆ』(小学館)、『一九八四+四〇 ウイグル潜行』(小学館)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story