コラム

iPhone不買運動、「日の出」を連想させるポスターの罵倒...中国政府「非公認の愛国」が暴走する理由

2024年03月11日(月)19時40分

'愛国'の暴走が増える懸念

要するに共産党は都合に応じて'愛国'のアクセルとブレーキを踏み分けてきたわけだが、草の根のナショナリズムの暴走を取り締まるのは徐々に難しくなる公算が高い。

その大きな理由は経済にある。

2023年のGDP成長率は目標をやや上回る5.2%を記録したものの、名目GDPに占める債務の割合は287.8%(前年比13.5%増)にのぼった。

ここからは消費が低迷するなか、政府支出がGDPを支えていることがうかがえる。

これと並行して、若年層の失業率は46.5%にも及ぶと試算される。

習近平は3月5日、債務削減と構造改革を目指すと宣言したが、その実行性は未知数のままだ。

これまで共産党体制は、経済成長のパフォーマンスによってその支配が正当化されてきた。裏を返せば、経済パフォーマンスの悪化は、それまで封印されていた社会不満を表面化させやすくする。

多くの国では社会・経済的な停滞が政府批判を招く。しかし、中国の場合、ゼロ・コロナ政策への抗議デモなど、よほど特異な状況でなければ政府批判は難しい。

とすると、外国や外国人に対する排外主義は、いわば大手をふって不満をぶつけられる、数少ないものになる。「政府公認」という思い込みがあればなおさらだ。

習近平のジレンマ

つまり、経済パフォーマンスへの不安・不満が広がれば、これまで以上に'愛国'を笠にきた言動が広がりやすいとみられる。

中国政府にとって、それを強権的に取り締まればかえって政府批判を噴出させかねない。かといって、アメリカとの部分的な関係修復が進むなかで'愛国'の暴走をただ認めれば、先進国との関係を無駄に悪化させるだけでなく、外交的な頼みの綱である新興国・途上国からも懸念を招きかねない。

コロナ感染が拡大した2020年、「中国の責任」を否定する人々によって「感染源」とみなされたアフリカ人へのヘイトが広がったことは、多くの国で忘れられていない。

こうしてみた時、ナショナリズムを鼓舞してきた中国政府は今後、これまで以上に難しいハンドリングを迫られることはほぼ間違いなく、その行方は当然、東シナ海や台湾をはじめ周辺地域の緊張にもかかわってくるのである。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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