コラム

なぜウクライナは「世界一の親イスラエル国」なのか

2024年02月13日(火)20時00分
キーウ市内に掲げられたイスラエル国旗

キーウ市内に掲げられた、連帯を示すためのイスラエル国旗(2023年10月8日) Viacheslav Ratynskyi-REUTERS

<背景には「欧米的でありたい」渇望と「見捨てられる」焦燥が>


・ガザでの人道危機に世界的に批判が高まるなか、ウクライナでは「イスラエルに親近感をもつ」人が7割近くにのぼる。

・これはイスラエル最大のスポンサーであるアメリカをも凌ぐ水準で、世界的にも例外に近い。

・そこには「欧米的でありたい」渇望と「見捨てられる」焦燥があるとみられる。

目立つイスラエル支持の世論

キーウ国際社会学研究所(KIIS)が昨年12月にウクライナで行った世論調査によると、「イスラエルに親近感を持つ」という回答は69%にのぼった。これは世界的にみて例外ともいえる高さだ。

例えば、イスラエルの最大のスポンサーであるアメリカでは、従来イスラエル支持が強いが、それでも昨年11月のYouGovによる調査ではイスラエルへの親近感が36%にとどまった。

また、AP通信の1月の調査では、「イスラエルは行き過ぎ」という回答は50%にのぼった。

アメリカでさえそうなのだから、ガザでの深刻な人道危機が連日のように報じられるなか、その他の先進国でも軒並みイスラエル支持が下落していることは不思議ではない。

とすると、ウクライナではなぜイスラエルへの親近感が7割近い水準にあるのだろうか。

KIISが示唆した二つの理由

世論調査を行ったKIISは、ウクライナ人にイスラエル支持が目立つ理由を、主に以下の2点から説明している。

(1)ユダヤ人への親近感

KIISは「ウクライナではユダヤ人に対する態度がその他のマイノリティに対するものより総じてよい」と指摘して、ユダヤ人国家イスラエルへの共感を説明している。

KIISがここであえて「ユダヤ人差別は少ない」と主張しているのは、「ウクライナ政府はネオナチ」というロシア政府の主張を否定する文脈で出てきたものだ。

しかし、KIISの説明を裏返せば、「多くのウクライナ人はムスリムにそれほど好意的でない」となる。パレスチナ人の大半はムスリムで、ウクライナにもムスリムはいる。

(2)民主主義陣営の一国

KIISは「多くのウクライナ人のイスラエルへの共感は、‘中世的な恐怖支配の体制の連合体’より‘自由で民主的な世界’を望んでいることからきている」と説明する。

要するに「民主主義vs権威主義」の構図のもとでウクライナ人は民主主義の側に立つ、ということで、ここからはハマスをロシアと同列に扱う思考がみて取れる。

それはハマスをパレスチナ人と一体と捉え、民間人の犠牲も仕方ないと割り切る態度になりやすい。

以上の2点を筆者なりに要約すれば、ウクライナで目立つイスラエル支持は「欧米的であろうとする」意識の強さの表れといえる。

「いかにも欧米的」な思考

ここでいう「欧米的」とは決してポジティブな意味ではない。

あえていえば、白人の被害を重視してムスリムや有色人種の犠牲を軽視するのも、それを自由や民主主義といった高尚な大義で正当化するのも、欧米では珍しくない。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの過激衣装にネット騒然

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 10

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story