なぜイギリスは良くてフランスはダメなのか? 大地震でもモロッコが海外の救助隊を拒む理由

現地に派遣されたスペイン軍の救助隊(9月14日、アミミズ) Emilie Madi-REUTERS
<現地で救助活動にあたっているのは、イギリス、スペイン、UAE、カタールの4カ国のチームのみ。フランスをはじめ外国の救助隊の受け入れをモロッコ政府が拒む理由とは>
・北アフリカのモロッコではM6.8の大地震に見舞われたが、海外の救助隊はほとんど活動できていない。
・モロッコ政府は海外の救助隊をかなり限定的にしか受け入れておらず、これが救助を遅らせているという批判もある。
・これは政治的判断によるものとみられ、とりわけ関係の深いフランスからの支援を断ったことはアフリカと先進国の関係の変化を象徴する。
大災害で「海外からの救いの手」が受け入れられるかどうかは政治に左右されやすい。
現場に入れない救助隊
アフリカ大陸の北西にあたるモロッコで9月8日、マグニチュード6.8と推定される大地震が発生し、中部アル・ホウズ州を中心に2600人以上の死者を出した。このクラスの被害は同国で60年ぶりともいわれる。
地震発生からすでに1週間が経ち、建物の下敷きになったままなくなる人も多い。SNSには惨状を訴える映像が溢れている。
こうした状況にもかかわらず、海外の救助隊はほとんど活動できていない。モロッコ政府は支援物資を受け取っていても、外国の救助隊はほとんど受け入れていないからだ。
災害時であっても、外国の組織が救助活動を行う場合、基本的には当事国の許可が必要になる。軍隊や消防といった公的機関はもちろんだが、NGOなどでも活動が規制されることはある。
東日本大震災の場合、多くの国から救助活動の申し出があったが、日本政府が受け入れたのは結局23カ国のチームだけで、最初に到着したスイスのチームは日本政府の許可がなかなか下りなかったため活動開始を数日待たされた。
モロッコの場合、イギリス、スペイン、UAE(アラブ首長国連邦)、カタールの4カ国のチームだけが作業できている。
この理由についてモロッコ当局は「数多くの救助隊にきてもらっても、コーディネイトできなければ非生産的(counterproductive)だから」と述べている。
震源地に近い地域はアトラス山脈のただなかにあり、たどり着くまでが大変だ。そのうえ、モロッコでは2004年により小規模の地震があったが、その際に数多くの救助隊がやってきて現場がかえって混乱した経験がある。
そのため、理解を示す専門家もある。国際赤十字社のディレクター、キャロライン・ホルトはAPのインタビューに「モロッコ政府の慎重な判断」を尊重すると述べている。
ただし、モロッコにおける救助活動が順調とみる専門家はほとんどいない。死者数が今後さらに増えることが見込まれることもあり、ペンシルバニア大学のカースティン・ブックミラー教授はスピードの重要性を強調する。
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