コラム

岸田政権は「海外に資金をばらまいている」のか?

2023年08月17日(木)18時10分

mutsuji230817_3.jpg

この構図のなか、日本はアメリカをはじめ欧米各国から国際協力を増やすよう求められやすい。

もともと日本のODAの規模はGNI(国民総所得)の0.2%程度で、経済規模に照らすと決して大きくない。そのうえ、日本以上のインフレ率や失業率に直面する国も多い。

ウクライナ向けODAで日本が先進国屈指の水準であることも、この文脈から理解できる。

つまり、ウクライナ向けの軍事援助に熱心な欧米の手前、この分野での協力に限界のある日本政府は、できる範囲でODAを増やさざるを得ない。アメリカの戦略に民生分野で協力することは、ベトナム戦争前後の東南アジアや、対テロ戦争におけるアフガニスタン、イラクでもみられたものだ。

内外政策の精査を

だとすると、岸田政権であろうがなかろうが、このタイミングで日本がODAを増やさない選択は限りなく難しい。

しかし、そうした「政治的援助」が増えることと、それが貧困削減など本来の目的に適うことはイコールではなく、日本(だけではないが)のODAにはしばしば手続きや採用などでの透明性の不足が指摘されている。

要するに、国内の公共事業で汚職や請負業者の不正が絶えないのと同じ構図だ。いくら外交的に必要でも、税金を投入する以上、こうしたムダを排除すべきことは当然である。

同じことは国内政策に関してもいえる。

不安定化する世界のなかで日本の国際的立場を保つためにODA増額が必要だが、そのために国民生活が軽視されていいはずはない。ODAと同様、国内の教育や社会保障に関しても、日本政府には効果や効率を意識して、資金の使い方をこれまで以上に精査することが求められる。

冷戦時代にも「援助競争」はあり、そのなかで日本はひたすらODAを増やし続け、1980年代にはアメリカと金額の首位を争うほどだった。

しかし、冷戦時代の日本は戦後復興から高度経済成長、そしてバブル経済へと経済成長の道をひた走っていた。

この点で現代とは大きく異なることを、日本政府にはもう一度思い出してもらいたい。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ガザ巡るバイデン氏の計画受け入れ=首相

ビジネス

サウジアラムコ株追加売り出し、募集開始直後に応募超

ワールド

アングル:ウクライナ最大の印刷工場が攻撃で焼失、再

ワールド

ゼレンスキー氏、アジア安保会議で演説 平和サミット
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    キャサリン妃「お気に入りブランド」廃業の衝撃...「肖像画ドレス」で歴史に名を刻んだ、プリンセス御用達

  • 3

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...すごすぎる日焼けあとが「痛そう」「ひどい」と話題に

  • 4

    「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母…

  • 5

    ウクライナ「水上ドローン」が、ロシア黒海艦隊の「…

  • 6

    1日のうち「立つ」と「座る」どっちが多いと健康的?…

  • 7

    ヘンリー王子とメーガン妃の「ナイジェリア旅行」...…

  • 8

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 9

    「娘を見て!」「ひどい母親」 ケリー・ピケ、自分の…

  • 10

    中国海外留学生「借金踏み倒し=愛国活動」のありえ…

  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    キャサリン妃「お気に入りブランド」廃業の衝撃...「肖像画ドレス」で歴史に名を刻んだ、プリンセス御用達

  • 3

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲームチェンジャーに?

  • 4

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

  • 5

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 6

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 9

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 10

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story