コラム

プーチンに逮捕状を出したICCとは? 発足の経緯や成果、権限など5つの基礎知識をおさらい

2023年03月20日(月)16時10分
プーチン

国家安全保障会議に出席するプーチン大統領(3月17日) Sputnik/Mikhail Metzel/Kremlin via REUTERS

<123の国・地域が加盟する国際刑事裁判所(ICC)は、ジェノサイドや戦争犯罪、人道に対する罪などを捜査・審理する権限を与えられている>

プーチン大統領に3月17日、逮捕状を発行したことで注目された国際刑事裁判所(ICC)。どんな組織で、どんな権限があるのだろうか。ICCについてまとめてみる。

1.日本も参加する国際法廷

ウクライナ侵攻をめぐってプーチンに逮捕状を発行したICCは、オランダのハーグに本部を置く国際裁判所で、主に以下の事案を捜査・審理する権限を与えられている。

・ジェノサイド(特定の民族・宗教などに対する組織的・意図的な大量虐殺)
・戦争犯罪(民間人の意図的殺傷など)
・人道に対する罪(戦時に限らない残虐行為)
・侵略罪

これらの行為を直接行った者ではなく、決定権をもつ立場の者の責任を追及し、処罰することが大きな役割である。その対象は今回のプーチンのように、国家元首も含まれる。

似たような名前の組織に国際司法裁判所(ICJ)があるが、こちらは国家間の領土問題などを裁く場で、役割が違う。

ICCのメンバー(締約国という)は現在123の国・地域で、裁判官や検察官をはじめ事務スタッフも含めて約900人からなる。

このうち18人の裁判官は締約国の法律専門家から選出され、日本からは現在、元最高裁検察官の赤根智子氏が名を連ねている。

ICCには検察官もいる。検察官は締約国からの要請や国連安全保障理事会の付託を受けて捜査を開始するが、自分の意思で捜査を行うことも認められている。今回の場合、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった直後の昨年3月、日本を含む40カ国以上の加盟国が要請したことを受けて、ICCは捜査と起訴手続きを進めてきた。

2.「民族浄化」の嵐のなかで誕生

ジェノサイドなどの人道危機を招いた責任者を処罰するICCは、1998年に採択されたローマ規定(2002年発効)に基づいて発足した。ICCが誕生した背景には、東西冷戦終結(1989年)後の世界各地で、ジェノサイドなどが頻発したことがあった。

例えば、旧ユーゴスラビアの内戦(1990~99年)では多くの民族が入り乱れての争いで13万人以上が殺害され、アフリカのルワンダ内戦(1990~94年)では50~100万人が無差別に殺傷された。

これらが世界に大きな衝撃を与え、ジェノサイドなど人道危機を抑止する必要への意識が高まるなか、ヨーロッパ各国やカナダなどの主導でICCは発足したのだ。

ただし、その権限が大きいだけに、発足段階からICCと距離を置く国も少なくなかった。先述のように、ICC締約国・地域は123だが、これは国連加盟国の約63%に過ぎない。

とりわけアジア太平洋と中東の締約国・地域は合計で19にとどまり、とりわけ消極姿勢が目立つ。この地域には特に国家主権を重視する国が多く、中国や北朝鮮に代表されるように「外部による裁き」への警戒がとりわけ強い。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

赤沢再生相、ラトニック米商務長官と3日と5日に電話

ワールド

OPECプラス有志国、増産拡大 8月54.8万バレ

ワールド

OPECプラス有志国、8月増産拡大を検討へ 日量5

ワールド

トランプ氏、ウクライナ防衛に「パトリオットミサイル
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    反省の色なし...ライブ中に女性客が乱入、演奏中止に…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story