コラム

大地震後トルコで広がる外国人ヘイトと暴力──標的にされるシリア難民

2023年02月17日(金)15時30分
トルコ・ハタイでの救助活動

トルコ・ハタイでの救助活動(2月14日) Clodagh Kilcoyne-REUTERS

<治安悪化でオーストリア軍とドイツの連邦技術支援隊は救助活動を一時停止。シリア難民が「魔女狩り」のターゲットに>


・大地震が発生した後、トルコでは略奪だけでなく「シリア人が犯人」と決めつける論調も広がっている。

・シリア難民を毛嫌いする極右勢力のヘイトメッセージは、シリア人への暴行やリンチをも増やした。

・この問題は以前からの政治対立を背景にしており、未曾有の災害に直面するトルコにとって大きな課題となっている。

大災害に見舞われたときにマイノリティが「魔女狩り」の標的にされることは珍しくない。2月6日に大地震が発生した後、トルコで広がるシリア難民への憎悪と襲撃は、国際的な救助活動の妨げにもなりかねない。

救助活動を妨げる暴力

トルコ南部ハタイに派遣されていたオーストリア軍とドイツの連邦技術支援隊は2月11日、被災地での救助活動を一時停止した。現地の治安悪化が理由だった。

ハタイに限らずトルコ各地では援助物資や商業施設、さらに一般住宅などを狙った略奪が横行しているだけでなく、「盗っ人」へのリンチや拷問も相次いで報告されている。

TwitterをはじめSNSにはこうした動画が次々とアップされているが、「盗っ人」とみなされた者が群衆に暴行されて流血するなど、あまりに凄惨で生々しい映像が多く、次々と削除されるイタチごっこが続いている。

トルコ政府は当初、略奪そのものを否定し、救助活動を一時停止したオーストリアやドイツを批判していた。

しかし、略奪が数多く報告され、「政府が市民を保護できていない」という不満が噴出するなか、トルコ政府もこれを無視できなくなった。

その結果、2月12日には略奪の容疑で64人を逮捕するなど、トルコ当局も取り締まりを強化している。

沸き起こるヘイト

治安が悪化するなか、とりわけ「盗っ人」とみなされやすいのが、シリアやアフガニスタンからの難民だ。

その一つの引き金になったのは、イスタンブール技術大学のO.A.エルジャン教授が2月8日、Twitter上で「シリア人が被災地の支配者になっている」と述べ、ハタイなどシリア難民の集中している土地が「国家安全保障の問題を引き起こしている」と主張したことだった。

略奪にかかわり、暴行される者にはトルコ人も多く、エルジャン教授の主張は露骨なヘイトメッセージだが、6万以上の「いいね」がついただけでなく、今も削除されていない。

こうして広がる反シリア感情により、今でもTwitterなどのSNSには「盗っ人のほとんどはシリア難民」といった書き込みが目立つだけでなく、「薬を持っていたら'盗んだのだろう'と言われて集団で暴行された」「自分たちは盗っ人じゃない」といった、トルコに暮らすシリア人の叫びが溢れている。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで軟調、円は参院選が重し
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story