コラム

再生可能エネルギーの拡大を支える揚水蓄電、日本の能力は世界屈指

2022年10月05日(水)12時28分

ダムから生まれる揚水蓄電(長野県黒部ダム、イメージ) Navapon_Plodprong/iStock.

<太陽光発電や風力発電は電力生産が不安定で主力電源として不適切というのはまちがい。日本の豊かなダムパワーは巨大な蓄電池になる>

中国で昨年(2021年)から揚水蓄電への投資ブームが始まった。

揚水蓄電とは、夜間など電力の需要が少ない時に、余った電気を利用して、水を低いところにある貯水池から高いところにある貯水池に汲み上げておき、電力への需要が多い昼間などに高いところの貯水池から放水して水力発電を行うものである。

日本では「揚水発電」と呼ぶのが一般的であるが、その機能は蓄電池と同じなので、揚水蓄電と呼ぶことにしたい。

中国の揚水蓄電の容量は2021年末時点で3639万kWと、世界トップだったが、今年末には4500万kW、2025年には6200万kW、2030年には1.2億kWと、急速に容量を増やす見込みである。

なぜこんなに増やすのかというと、それは再生可能エネルギーの導入を拡大するためだ。中国政府の目標(「再生可能エネルギー14・5発展計画」)では、2020年時点で風力発電2.8億kW、太陽光発電2.5億kWだったのを、2030年には両者合わせて12億kWに増やす計画である。

しかし、こうした自然由来のエネルギー源には、電力生産の不安定性という問題がどうしてもつきまとう。風力発電は風が吹かないと発電できないし、太陽光発電は夜間には発電できず、昼間でも曇りや雨になると出力がかなり落ちてしまう。2021年秋に中国東北部で一般家庭が停電になり、信号機が消えてしまうほどの電力不足が生じたが、それは風力発電が通常の10分の1以下にまで落ちたことが主な原因であった(堀井、2022)。

揚水蓄電をビジネス化した中国

そうした自然任せのエネルギー源を主力電源とするためには、なんらかの蓄電手段によって、電気が作られすぎた時には電気を蓄え、電気が足りない時には電気を放出して供給の変動をならす必要がある。

蓄電手段としては、蓄電池のほか、余った電気によって真空中のフライホイールを回転させておき、電気が足りない時はその回転エネルギーで発電するという方法もある。さらに、余った電気によって水素を作れば、他の場所へ持って行って燃料電池車の燃料としたり、燃料電池で発電したりすることができる。

ただ、いずれの技術も現状ではコストが高いのが難点である。揚水蓄電も山などの傾斜地を利用して高いところと低いところに貯水池を作り、間に水力発電所を作るので多額の建設費用がかかるものの、原理は水力発電と同じなので、技術が成熟している。

中国での揚水蓄電ブームは、単に風力発電や太陽光発電が増えてそれが必要になったというだけでなく、揚水蓄電がビジネスとして成り立つような制度が作られたことによる。揚水蓄電のビジネスとは、簡単に言えば、電気が余っている時に安く買って水を汲み上げ、電気が足りない時に発電して電気を高く売ることで利ザヤを稼ぐことである。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スペイン首相が辞任の可能性示唆、妻の汚職疑惑巡り裁

ビジネス

米国株式市場=まちまち、好業績に期待 利回り上昇は

ビジネス

フォード、第2四半期利益が予想上回る ハイブリッド

ビジネス

NY外為市場=ドル一時155円台前半、介入の兆候を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story