コラム

「危険ドラッグ」の呼称が注意喚起になっていない理由

2024年08月07日(水)10時50分
危険ドラッグのイメージ

(写真はイメージです) Teerawut Bunsom-Shutterstock

<「不審者」「防犯カメラ」「防犯ブザー」も同じ。名付けて満足してしまう「言霊信仰」から日本は脱出すべき>

報道によると、危険ドラッグの販売店が増えているという。危険ドラッグとは、規制を逃れるため、麻薬や覚醒剤などの構造に似せて作られ、同様の作用を起こす薬物のことだ。「ハーブ」「アロマ」「野菜」などと称して販売されている。

厚生労働省は、人体に影響のある有害物質を指定薬物として規制しているが、指定までのタイムラグが生じるのは避けられない。そこで、こうした商品への注意を喚起するため、厚生労働省と警察庁は、この種の薬物を「危険ドラッグ」と命名し、注意を呼びかけている。

ところが、危険ドラッグは麻薬や覚醒剤より安く、インターネットで手に入りやすいため、前述したように、販売店の増加につながってしまうわけだ。この問題を解決するための一方策として、「危険ドラッグ」を「有害ドラッグ」に名称変更すべきだという意見がある。

その是非について、一般の人々はどう考えているのだろうか。Polimill株式会社が提供するSNS「Surfvote」が賛否を尋ねたので、その投票結果を見てみよう。

newsweekjp_20240805114054.jpg

(C) Polimill株式会社

この結果を見ると、「有害ドラッグ」への名称変更については、消極的な意見が大勢のようだ。個別の意見には、次のようなものがあった。

newsweekjp_20240805114125.jpg

(C) Polimill株式会社

筆者は当初から「危険ドラッグ」の用語に批判的だった。なぜなら、ドラッグ(薬)には必ず、副作用を起こすリスクがあるからだ。始めから読んでも、終わりから読んでも「クスリのリスク」である。つまり、「危険ドラッグ」は、「馬から落馬する」「頭痛が痛い」のような重複表現に近い言葉なのだ。

にもかかわらず、前出の調査では、18%しか「有害ドラッグ」を支持せず、61%も「危険ドラッグ」を支持していた。この結果については、「言霊信仰」が影響したと思えて仕方がない。言霊信仰とは、言葉に一種の霊力があり、言葉に出すと、それが現実になってしまうと信じることである。海外にも見られる現象だが、日本で特に顕著だという。

不幸なことは「縁起でもない」として、言わないようにし、見ないようにする。マスコミも報道しないようにする。報道すれば「煽っている」と批判されるからだ。その結果、「最悪の事態」を想定できず、多くの悲劇を招いてきた。例えば、太平洋戦争の時も、「日本が負ける」という意見が「縁起でもない」として非国民の発言とされ、戦争をやめられなかった。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページはこちら。YouTube チャンネルはこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米人員削減、11月は前月比53%減 新規採用は低迷

ビジネス

英中銀、プライベート市場のストレステスト開始 27

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ワールド

ウクライナ南部に夜間攻撃、数万人が電力・暖房なしの
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story