コラム

中国紙「史上最強の人民軍を構築せよ」 ペロシ訪台は中国を怒らせただけなのか?

2022年08月03日(水)12時11分

北京は台湾との緊張も劇的に強めている。5月に中国軍機30機が台湾の防空識別圏(ADIZ)に侵入するなど、中国は台湾のADIZやその周辺で爆撃機、戦闘機、偵察機によるパトロールを強化する。米国防総省は「人民解放軍(PLA)は第三者の介入を抑止・遅延・拒否するとともに、台湾を武力で統一する準備をしている恐れが強い」と警告する。

ペロシ氏は「中国共産党が台湾を、民主主義そのものを脅かしているのを黙って見ているわけにはいかない。実際、世界が独裁と民主主義の間の選択に直面している時にこの旅に出た。台湾を訪問することで私たちは民主主義へのコミットメントを尊重し、台湾の、そしてすべての民主主義国の自由が尊重されなければならないことを再確認した」と力を込めた。

環球時報「人民軍は主権と安全を守るために戦うことを恐れない」

中国共産党機関紙「人民日報」系「環球時報」(英語版)は「PLAは主権と安全を守るために戦うことを恐れない」という論説を掲げた。「PLAは1日、95歳の誕生日を迎えた。世界情勢が覇権主義と冷戦思考に包まれた激動期を迎える中、『国が本当に強く安全になるには強い軍隊が必要』というスローガンが中国人の間でコンセンサスとなった」という。

PLAが100歳を迎える2027年までに中国は台湾に侵攻する準備を整えるとの見方もある。

スウェーデンのシンクタンク、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、中国は27年連続で国防支出を増やし、現在、アメリカに次ぐ世界2位の軍事大国だ。昨年は前年比4.7%増の推定2930億ドル(約38兆9300億円)を国防費に充てた。南シナ海と東シナ海での中国の活動を警戒する米英豪は安全保障パートナーシップ「AUKUS」を結んで対抗する。

環球時報は「ペロシの挑発は中国が歴史上かつてないほど強力な人民軍を構築する必要があることを改めて証明するものだ。ペロシがPLAを恐れているからこそ目立たないように行動したのだろう。PLAが恐くなければ台湾の民進党当局や分離派もより無謀な行動をとることも考えられる」と説く。

「ペロシのような外患と台湾分離派の存在と結託はPLAへの要求を高めている。わが軍は戦争に向けた訓練と準備を怠ることはできず、PLAを世界に通用する軍隊に発展させることを加速させなければならない。PLAは40年近く戦争をしたことがない。長い間、平和に過ごしてきた結果、戦うことを知らなくなるような事態は避けなければならない」と戒める。

米軍当局者「いま台湾を訪問することは良い考えではない」

英紙フィナンシャル・タイムズによると、当初、ペロシ氏は4月訪台を計画していたが、コロナ検査で陽性反応が出たため、8月に延期した。ジョー・バイデン米大統領は7月下旬、ペロシ氏の訪台計画について「米軍当局者はいま台湾を訪問することは良い考えではないと考えている」と発言して、ペロシ氏の「議員外交パフォーマンス」を牽制した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

焦点:25年下半期幕開けで、米国株が直面する6つの

ワールド

日米豪印、4月のカシミール襲撃を非難 パキスタンに

ビジネス

米ゴールドマン、投資銀行部門グローバル会長にマライ

ワールド

気候変動災害時に債務支払い猶予、債権国などが取り組
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 7
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 8
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story