コラム

中国紙「史上最強の人民軍を構築せよ」 ペロシ訪台は中国を怒らせただけなのか?

2022年08月03日(水)12時11分
ペロシ台湾訪問

台湾議会を訪問したペロシ米下院議長(8月3日) Ann Wang-Reuters

<ペロシ米下院議長の台湾訪問に中国は軍事演習で対抗し、台湾海峡は一気にヒートアップ。今回の訪問は、台湾の安全保障改善に貢献したのか>

[ロンドン発]アジア歴訪中のナンシー・ペロシ米下院議長(民主党)率いる米下院代表団は2日、米軍機で台北に到着し、「台湾の活力ある民主主義を支援するアメリカの揺るぎないコミットメントを称えるものだ」との声明を発表した。現職下院議長の訪台は1997年のニュート・ギングリッチ氏(共和党)以来25年ぶりで台湾海峡は一気にヒートアップした。

ペロシ氏は「台湾の指導者との話し合いはパートナーに対する私たちの支持を再確認し、自由で開かれたインド太平洋地域の推進を含む私たちの共通の利益を促すことに焦点を当てる。 世界が独裁か民主かの選択に直面している今日、2300万人の台湾の人々とのアメリカの連帯はこれまで以上に重要だ」と訪台の理由を述べた。

3日に台湾の蔡英文総統と会談する予定だ。空港には報道陣と群衆が詰めかけ、ペロシ氏の訪台を歓迎する声に包まれた。

アメリカが「中国はただ一つであり、台湾は中国の一部分であると主張していることを認識」した米中共同声明(1972年)、台湾に兵器を供与する一方、台湾防衛のための軍事行動を選択肢として残した台湾関係法(79年)、アメリカは台湾を支え続けることを再確認した「6つの保証」(82年)と何の矛盾もないとペロシ氏は強調した。

ペロシ氏やグレゴリー・ミークス外交委員会委員長、マーク・タカノ退役軍人委員会委員長、スーザン・デルベネー歳入委員会副委員長ら下院代表団の6人はいずれも民主党所属。1日からシンガポール、マレーシア、韓国、日本を歴訪し、インド太平洋における相互の安全保障や経済連携、民主的ガバナンスについて協議する。

約30年前、天安門広場で横断幕を掲げた人権派議長

米紙ワシントン・ポストへの寄稿でペロシ氏は「約30年前、私は超党派下院代表団の一員として中国を訪れた。天安門広場で『中国の民主化のために命を落とした人々に捧げる』と書かれた横断幕を掲げた。広場を去る時、制服の警官に追いかけられた。それ以来、北京のひどい人権侵害と法の支配無視は続き、習近平国家主席は権力への支配を強めている」と指摘する。

習氏の時代になって、中国共産党は香港やチベット、新疆ウイグル両自治区で強権支配を強めている。

これについて人権派のペロシ氏は「香港の政治的自由と人権に対する中国共産党の残忍な弾圧はカトリック香港教区名誉司教の陳日君(ジョセフ・ゼン)枢機卿さえ逮捕し、『一国二制度』の約束をゴミ箱に放り込んだ。チベット人の言語、文化、宗教、アイデンティティーを抹殺するキャンペーンを主導し、新疆ウイグル自治区では少数民族に対するジェノサイド(絶滅計画)を進めている」と痛烈に批判した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫

ビジネス

再送-〔ロイターネクスト〕米第1四半期GDPは上方

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円以外で下落 第1四半期は低
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story