コラム

「武漢株がハイエナならインド変異株は最速チーター。日本は五輪がなくても生きていけるが、ウイルスが広がると高齢者の遺体が積み上がる」英専門家

2021年05月16日(日)19時01分

──日本の国立感染症研究所が今年2月10日~5月6日の国内感染例20万7128例を解析した結果、英変異株が2585例、南アフリカ株が20例、ブラジル株が67例でした。N501Y-PCR検査陽性だがウイルスゲノム確定していない症例は1万2866例だったそうです

「日本の人口は1億2557万人で、1回目のワクチン接種を受けた人は医療従事者が336万7995人、高齢者が65万9338人(2回接種はそれぞれ152万284人、4万5819人)です。検査による陽性者も累計で66万5643人です。これらのことを考えると、人口の大半はウイルスに感染しやすい状態で残されています」

「つまり日本の人口のほとんどは捕食者に対して脆弱な草原の草を食べるカモシカのようなものです。捕食者とはハイエナ(もともとの中国・武漢株)、ライオン(より急速に広がるイギリスやブラジル、南アフリカの変異株)、チーター(潜在的にさらに速く感染するインド変異株)です。日本ではワクチン接種や自然免疫で保護が強化された、より高い"免疫学的な丘"に逃れた人は人口のごくわずか(2〜5%)です」

──イギリスの予防接種合同委員会(JCVI)はワクチンの余裕があれば、インド変異株が主要な脅威である地域ではワクチンの2回目の投与を12週間から8週間前倒しするよう勧告しました。この決定についてどう思いますか

「この背後にある考え方は、インド変異株が感染するために登らなければならない"免疫学的な丘"の高さをさらに上げる前に既存のワクチンによる免疫を高めることだと思います。インド変異株の急増を減らすのが狙いです」

──日本の菅義偉首相は東京五輪・パラリンピックについて「人類が新型コロナに打ち勝った証し」としてからトーンダウンしたものの、依然として「世界の団結の象徴として開催を実現する決意である」と世界に向けて表明しています。予定通り開催すべきだと考えますか

「正直なところ、私の考えはノーです。このウイルスは世界で最も高齢者の割合が高い日本全体に広がる恐れがあります。日本の65歳以上は総人口の28.7%。ワクチン接種、自然感染による免疫が十分でない状態でコロナの全国的なアウトブレイクが発生すれば日本にとって大災害となる可能性があります。日本は五輪なしでも生きていけますが、ウイルスが日本中に広がると多くの高齢者が亡くなります」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン大統領と外相搭乗のヘリが山中で不時着、安否不

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 9

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 10

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story