コラム

南北首脳会談──平壌を訪問したサムスンのオーナー

2018年09月18日(火)19時45分

2000年の南北首脳会談以降、金剛山の開発や自動車合弁会社を設立するなど、北朝鮮への投資に積極的だったヒュンダイグループなどとは異なり、サムスンは対北事業に消極的で、テレビやラジオを平壌で委託加工するレベルにとどまっていた。それまでの首脳会談にもトップが参加することはなかった。

しかし今回は様子が異なる。韓国政府が主催した今回の首脳会談の事前説明会の場に、ほかの企業会長らが代理人を送るにとどまったのに対し、李副会長は自ら足を運んでいるのだ。特別随行員らに首脳会談の日程や現地での注意事項についての説明が行われる場だったが、李副会長は取材陣に対し「当然、参加すべきだと思い来たまでです」と答えている。

李在鎔副会長が平壌行きに積極的な姿勢を見せている理由について、韓国メディアでは様々な推測が流れている。特に現在、李副会長は朴槿恵前大統領の黒幕に対する贈賄疑惑により、執行猶予中の身だ。今後も裁判が続くため、保身のために政権にすり寄っているという話が目立つ。

一方で南北経済協力のメリットに触れる報道もある。

米CNNは「南北の経済がつながり、韓国がアジアの大陸を結ぶ陸路が建設され、収益性の高い貿易とインフラが開放される計画を文在寅政権が提示した」「こうした計画は結局、サムスンをはじめとする財閥の利益になり得る」と報じている。

背景には様々な事情が絡んでいるのだろうが、韓国の政界ではこれと関連して興味深い噂が流れている。

李副会長はサムスングループを世界的な企業に育てた父・李健熙会長のようにリーダシップを発揮できず、グループ役員らを思い通りにコントロールできないことに悩んでいるという。その上、贈賄罪の疑惑で拘置所暮らしをし、サムスンの御曹司として育ってきた人生で初めての屈辱を味わっている。

悩んだ彼はある著名な宗教家を訪ね、このようなアドバイスを受けたという。

「これまでにサムスンが関わっていない分野を主導して、そこで成果を挙げてはどうか」

そこで目を点けたのが対北朝鮮事業ということだ。

サムスングループ傘下には建設、電子、造船、バイオなど、南北経済協力に参入しやすい分野の会社が多いのも確かだ。これまで対北事業はヒュンダイグループが担ってきたが、そこにサムスンが加わる可能性がある。

世界有数の大企業であるサムスンが、北朝鮮でどのような事業展開をしていくのか。今後が注目される。

プロフィール

金香清(キム・ヒャンチョン)

国際ニュース誌「クーリエ・ジャポン」創刊号より朝鮮半島担当スタッフとして従事。退職後、韓国情報専門紙「Tesoro」(発行・ソウル新聞社)副編集長を経て、現在はコラムニスト、翻訳家として活動。訳書に『後継者 金正恩』(講談社)がある。新著『朴槿恵 心を操られた大統領 』(文藝春秋社)が発売中。青瓦台スキャンダルの全貌を綴った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドル一時153.00円まで下落、日本政府は介入の有

ビジネス

米国株式市場=まちまち、FOMC受け

ビジネス

FRB、金利据え置き インフレ巡る「進展の欠如」指

ビジネス

NY外為市場=ドル一時153円台に急落、介入観測が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 9

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story