コラム

平壌市民が驚いた「腰の低い大統領」

2018年09月28日(金)11時45分

Pyeongyang Press Corps/Pool via REUTERS

平壌市民たちの表情が一瞬、変わった気がした。

平壌の順安飛行場。9月18日、飛行機のタラップから敷かれたレッドカーペッドに降り立ったのは、南北首脳会談のために訪問した文在寅大統領だった。

「マンセー(万歳)!」「チョグットンイル(祖国統一)!」

旗と花を手にした市民が、そう声を挙げて歓迎すると、つかつかと文大統領が駆け寄り握手を始めたのである。

少し驚きながらも握手に応じる市民たち。すると文大統領の後ろから金正恩委員長が「そろそろこちらへ」という風に、レッドカーペッドに戻るよう即した。
 
驚きの場面はこれで終わらなかった。

15万人の市民の前でお辞儀した文大統領

場所は変わって大同江水産物レストラン。

ここは韓国側が事前に「大統領が平壌の庶民的な店で食事をしてみたいと言っている」と要求し、セッティングされた店である。

文大統領は店内に入ると、ここでも食事をする市民らに「お味はどうですか?」などと質問を投げかけ、握手を交わしたのだ。今度は妻の金正淑氏が「その辺で」と制するほどだった。

平壌滞在中に宿泊した迎賓館を出る際も、見送る施設のスタッフらと一人一人握手を交わした。

握手のほかにも話題になっているのは、文大統領の「お辞儀」だ。平壌市民らが歓迎を示すと、文大統領はその都度、深くお辞儀をしてみせた。

大規模マスゲームが披露された綾羅島メーデー・スタジアムで、15万人の市民の前で文大統領がお辞儀をすると、金委員長がつられてお辞儀しそうになる場面もあった。

最高指導者の権威は絶対的であると学んできた平壌の人々の目に、南から来た「腰の低い大統領」の姿はどう映ったのだろうか。

平壌市民らに大きなインパクトを与えた

他にもこんなことがあった。北朝鮮側が準備した歓迎公演の会場に両首脳が入場すると、観客の拍手と歓声が鳴りやまない。金委員長が制してもしばらく拍手と歓声が続き、これについて韓国メディアは「文大統領を平壌市民が熱烈に歓迎した」と報じている。

プロフィール

金香清(キム・ヒャンチョン)

国際ニュース誌「クーリエ・ジャポン」創刊号より朝鮮半島担当スタッフとして従事。退職後、韓国情報専門紙「Tesoro」(発行・ソウル新聞社)副編集長を経て、現在はコラムニスト、翻訳家として活動。訳書に『後継者 金正恩』(講談社)がある。新著『朴槿恵 心を操られた大統領 』(文藝春秋社)が発売中。青瓦台スキャンダルの全貌を綴った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story