コラム

北朝鮮は戦争をしたいのか?したくないのか?

2017年04月17日(月)20時00分

Damir Sagolj-REUTERS

4月15日午前、平壌の金日成広場。

広場には軍事パレードを行うために朝鮮人民軍が隊列を作り、吹奏楽隊が入場、客席には外国からの客人や外信記者が入った。

楽隊の指揮者が手を挙げると、演奏者だけでなく、並んでいる軍人、そして客席などにも緊張が走った。バルコニーになっている席に幹部たちが入ってくると共に、「1号歓迎曲」と呼ばれる曲が流れた。これは金正恩委員長が入場したという合図だ。

パレードのみならず、マスゲームや芸術公演などの開演前にこの音楽が流れると、北朝鮮の国民は金正恩本人の姿が見えなくても、いつもより力を込めて拍手をしながら「マンセー(万歳)」を叫ぶ。逆に一般的な「歓迎曲」が流れると、金正恩委員長は来ないことがわかり、出演者たちは落胆する。

金正恩はバルコニーから満面の笑顔で国民の拍手と歓声に応えて手を振った。

この日、日本や韓国では米朝間の緊張状態を伝える報道が相次いでいた。金正恩が笑顔の裏で何を目論んでいるのは何なのか、テレビや新聞では北朝鮮の次の行動を推測した。

威嚇しあいながらも、衝突を避けている米朝

3月以降の両国の動きを時系列で追っていく限りでは、全面衝突はないだろうと推測できると思う。

まず3月1日、韓国では以前から予定されていた米韓軍事合同演習が行われた。ここには昨年の31万人を上回る、過去最大の兵力が動員された。そして3月末、北朝鮮は行動に出た。これまでに4回、核実験が行われたとされる咸鏡北道の豊渓里にある核実験場で、車両が出入りしたり、通信ケーブルが敷かれるなど、核実験の準備を進める様子が衛星にキャッチされたのだ。

しかし今回の動きはいつもと違った点が指摘されている。これまでは核実験の準備は密かに行われていたのが、今回は偵察衛星を意識しているかのように、わかりやすい動きをしていたというのだ。

そして4月5日には翌日の米中首脳会談を意識したかのようなミサイル実験が行われ、米国は「核実験を行えば先制攻撃する」と警告し、15日には原子力空母を朝鮮半島近海にまで接近させた。それに対し北朝鮮は「先制攻撃をするなら戦争を辞さない」としながらも、核実験ではないミサイル発射実験を16日に行った。

こう見ると、北朝鮮と米国は威嚇しあいながらも、全面衝突を避けているように見える。そもそも原子力空母カールビンソンは当初から合同訓練に参加する予定だった。

プロフィール

金香清(キム・ヒャンチョン)

国際ニュース誌「クーリエ・ジャポン」創刊号より朝鮮半島担当スタッフとして従事。退職後、韓国情報専門紙「Tesoro」(発行・ソウル新聞社)副編集長を経て、現在はコラムニスト、翻訳家として活動。訳書に『後継者 金正恩』(講談社)がある。新著『朴槿恵 心を操られた大統領 』(文藝春秋社)が発売中。青瓦台スキャンダルの全貌を綴った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下

ワールド

米大統領とヨルダン国王が電話会談、ガザ停戦と人質解

ワールド

ウクライナ軍、ロシア占領下クリミアの航空基地にミサ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 7
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 8
    もろ直撃...巨大クジラがボートに激突し、転覆させる…
  • 9
    日本人は「アップデート」されたのか?...ジョージア…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 6
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story