コラム

架空の内容を答えることも...特に日本で、ChatGPTの「不誠実さ」に注意が必要な訳

2023年04月26日(水)17時22分
ChatGPT

CHUAN CHUAN/SHUTTERSTOCK

<「返答すること」を優先するあまり、内容の正確さに疑問が残るチャットGPT。だがフレンドリーかつ不誠実なAIは今後もシェアを拡大していくだろう>

チャットGPTなど対話型AIが急速に社会に浸透しようとしている。こうした新しいAIは従来型とは異なり、対話力が高いため、取りあえず何らかの答えを返してくる。

しかし、ネット上にある情報を収集し、一定のアルゴリズムによって結果を得ているという点では従来型AIと変わることはなく、言い方を変えれば、ただ会話がうまくなったAIでしかない。

同じ対話型AIでも、マイクロソフトが同社の検索エンジンであるbingに実装したものは従来型に近く、分からないことは分からないと返してくる。一方、チャットGPTはとにかく返答することを優先しているように思われ、架空の人物をつくり上げてしまうことがあるなど、少々不誠実なAIと言っていい。

厳密にはAIが不誠実というよりも、開発する企業の姿勢が問われているという話だが、こうした事案から一部の専門家は対話型AIの利用について何らかの制限を加えるべきと主張している。しかし、ネットが大衆向けのビジネス基盤として確立した今、不誠実なAIが増加し、こうしたフレンドリーなAIほどシェアを拡大するという未来は容易に想像できる。

「集合知」を成立させるのに必要な条件

そうなってくると、AIに大きな間違いをさせないための社会的な工夫が必要となってくるが、AIがネット上にある情報を収集して答えを得る以上、最終的にAIの正確性を担保するのはネット空間に存在する情報の質ということになる。

以前から人間の集団には「集合知」が成立することが知られている。集合知というのは、多くの意見を集めれば集めるほどより正しい見解が得られるという概念である。

しかし、この命題が成立するためには、意見の発信者が個人として独立し、社会に多様性があることが必要条件となる。さまざまな見解を持った人が十分な数だけ集まっていなければ意味がなく、同じような人物の集団だったり、声の大きい人に左右される人ばかりでは、全体の意見も極端な方向に流れてしまう。

ネット空間にアップされる情報が偏っていれば、AIの情報も結局は偏ったものとなり、AIが出す結論も間違ったものとなる可能性が高い。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、AI・エネルギーに700億ドル投資へ 

ビジネス

英中銀総裁「不確実性が成長を圧迫」、市場混乱リスク

ビジネス

米関税措置、国内雇用0.2%減 実質所得も減少=S

ワールド

ゼレンスキー氏、スビリデンコ第1副首相を新首相に指
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 2
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story