コラム

パナマ文書問題、日本の資産家は本当に税金逃れをしているのか?

2016年05月17日(火)15時47分

 日本の金融市場は規制でがんじがらめとなっており、これが経済の活性化を妨げているとの指摘があることは多くの人が知っているはずだ。これは裏を返せば、日本における金融取引は、すべて当局の管理下にあるということを意味している。

 特に海外への資産移転については、銀行の送金記録などから、ほぼすべてが把握されていると思ってよいだろう。もし疑問に思う読者の方がいるなら、実際に銀行に行って海外送金を依頼してみるとよい。わずか数百万円の資金であっても、窓口で資金の出所や送付目的などをしつこく聞かれ、場合によっては送金を断られることになるはずだ。相続税の対象になるほどの資産を、当局に把握されない形で海外に移転することなど事実上不可能である。

 また、生活の拠点が海外にあるとして相続税を支払わないケースでは、生活実態が本当に海外にあるのか国税庁による厳しい調査が行われる。仮に資産を海外に移すことができたとしても、かなりの確率で国内で課税されてしまうだろう。

 そうなってくると、タックスヘイブンを利用する目的のほとんどは、国際的な金融取引や不動産取引の中継地点としての利用であり、この場合にはごく当たり前のビジネス活動ということになる。

 今回のリストには伊藤忠商事の名前があるが、関連して出てきたペーパーカンパニーは、中国の不動産デベロッパーとの共同開発案件で使われた可能性が高い。また、楽天会長の三木谷浩史氏の名前も出ているが、これも書類を見た限りでは、三木谷氏個人によるベンチャー企業への間接出資に使われただけのようである。

 どちらのケースも、税務申告の内容に虚偽がなければ、その行為自体に違法性はないと考えた方がよいだろう。税の申告をごまかす人や企業は、その場所が国内であれ、国外であれ一定数存在している。問題は虚偽の申告をすることであって、タックスヘイブンを使ったかどうかではない。この点はしっかりと峻別する必要があるはずだ。

【参考記事・一覧】ニューストピックス:世紀のリーク「パナマ文書」の衝撃と波紋

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、予想

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story