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アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確実性を反映

2025年05月01日(木)21時09分

日銀の植田和男総裁は1日、追加利上げのカギを握る基調的な物価上昇率について、2%目標の達成時期が従来より後ずれするとした上で、利上げがその分後ずれすることには否定的な見方を示した。写真は会見する植田総裁。日銀本店で1月撮影。(2025年 ロイター/Issei Kato)

Takahiko Wada

[東京 1日 ロイター] - 日銀の植田和男総裁は1日の記者会見で、追加利上げのカギを握る基調的な物価上昇率について、2%目標の達成時期が従来より後ずれするとした上で、利上げがその分後ずれすることには否定的な見方を示した。一方で、基調的な物価が下振れる可能性にも言及。米関税政策の動向次第でシナリオ自体が変化する可能性が十分に考えられる中、状況に応じて経済・物価見通しを修正し、柔軟な政策対応が必要な局面との思いがにじむ。

<ベストエフォート>

この日発表された展望リポートは、脚注に見通しの前提が明記された。米国の関税政策の今後の展開について、日米交渉の帰すうや各国の対抗措置など多様なシナリオが考えられるため、日銀内で「目線」を揃えた形だ。その展望リポートの中心的見通しは「今後、各国間の交渉がある程度進展するほか、グローバルサプライチェーンが大きく毀損されるような状況は回避されることなどを前提に作成している」とした。関税を巡る不確実性は無視できない一方、その影響を過大評価せず、「ベストエフォートで中心的見通しを出した」(植田総裁)という。

米関税政策をめぐって日銀内では、中間選挙を26年に控え、さすがに米国の実体経済を大きく悪化させてまで高関税を継続することは考えにくいとの指摘がある。植田総裁は、(相互関税の上乗せ分停止期間の)90日内外にはある程度不確実性は低下するとの見方を示した。また、トランプ大統領が関税をゼロにしたり極めて低い水準にすれば、利上げを急ぐ可能性もあり得るとした。

一方で、米関税政策がもたらす物価の下振れリスクにも言及。基調的な物価上昇率について、企業収益が下押しされ、企業が従来の「コストカット型」に戻り始めれば、賃金と物価の好循環は続かず、下がっていくリスクがあると述べた。

日銀の展望リポートや植田総裁の会見が「ハト派的」と受け止められ、市場では早期の追加利上げ観測が一段と後退し、為替は円安に傾斜したが、日銀には米関税政策を巡る不確実性が大きい中で、政策の柔軟性を確保しておきたいとの意向がある。

<見通しの確度、これまでほど高くない>

日銀内では、トランプ米大統領の言動が朝令暮改の様相を呈する中、今回の展望リポートで示した見通しは「仮置き」であり、新たな政策が打ち出されるたびに見通しをアップデートし、それに応じて柔軟に政策対応していくことが重要だとの声が聞かれる。

植田総裁は、賃金と物価の好循環の持続性について、年末のボーナスや来年度の春闘が重要なポイントになるが、関税政策の中身や企業収益への影響が明らかになれば、年末を待たずにその持続性を判断できると話した。

国内では、ここまで賃金と物価の好循環が持続してきた。日銀内では米国を巡る不確実性が後退し、物価上振れ圧力が高まってくれば利上げが可能になるとの見方がある。ただ、植田総裁は今回修正した経済・物価見通しに対してオントラックとなるかは今後の状況次第だと指摘。経済・物価の中心的見通しの確度は「これまでほど高くない」と話している。

ロイター
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